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アメリカ陰謀論の真相/文芸社
７月１０日、ＢＳ日テレにおいて、ケネディ大統領の功績を
振り返り、大統領暗殺に潜む陰謀の可能性を紹介した番組
『ジョン・F・ケネディその光と陰 ～暗殺の謎に迫る～』が放映
された。
番組の最後では迷宮入りした事件の犯人の人相を描けると
いう触れ込みの人物が暗殺犯のイラストを描いて終わっていた。
本ブログでは、この番組で紹介された陰謀の根拠について
補足しながら論じることとする。
尚、本ブログの方針として誰でもわかる単純な話を軸に、
引用紹介する資料も数十年前に公開された誰でも手に入る
もの中心に展開するが、それは陰謀説が既知の情報を無視
して展開されたレベルの低い論であるのを示すためだ。
「パレード・ルート変更説」
事件に興味のある方ならご存じだろうが、ケネディのパレー
ドが事件当日朝、事件現場であるデイリー広場内を直進する速
度が落ちない安全なルートから、右折があるため速度が落ちる
狙撃者に狙いやすいルートに突然変更されたというものだ。
ルートを変更したのは、ケネディと対立していたＣＩＡ副長官
チャールズ・カベルの実弟の、アール・カベルダラス市長だと
いう。
この話は映画『ＪＦＫ』に登場する有名で、映画の脚本の叩
き台の、ジム・ギャリソンの著作『ＪＦＫ：ケネディ暗殺犯を追
え』（邦訳、早川書房）を始めとする暗殺研究書では話はこう
なっている。
事件当日の地元の新聞『ダラス・モーニング・ニューズ』紙の
一面掲載のルート図ではパレードは直進することになっており、
これがルートが突然変更された証拠だという。
だがこれは全て誤りだった。地元の他の新聞も記事の文言や
地図でルートを説明しているが、モーニング・ニューズ紙以外の
記事には現実通りの曲がるルートが掲載されていたのだ。
そもそもパレードはダラスの空港を起点として市内を周遊し、
国際貿易センターを終点とする長い道筋でありデイリー広場は
その中の一部であり、広場内の直進/曲進をパレード図に書き入
れてもささくれのような小さなものにしかならず、ニューズ紙の
イラストが紙面の八分の一ほどの小さいものであったため曲が
りを入れてもほとんど判別できないので略したことが誤解を生ん
だようだ。
では、何故パレードはわざわざ危険な迂回ルートになったの
だろうか？
ケネディがパレードを終える前に撃たれてしまい、ルートの全て
を回れず病院に直行したためあまり知られていないが
（写真とイラスト参照）、
の橋を越した後に三差路の右にあるステモンズ高速道路に乗り
貿易センターに向かう予定だったが、三差路内のメイン・ルートを
直進した場合、その右の道のと間に道を分ける低いコンクリート
があり切れ目がわずかしかないため、その間を縫ってステモンズ
に入るには短い距離内で急角度のＳ字カーブを切らねばならず
（イラストでは青が予定のルート、赤がメインを選択した場合の
ルート）車が何秒も停止してしまい保安上極端に危険な状態に
なり、ケネディのリムジンに連なる多数の車が続くため渋滞が
起きて極端に危険になるため直進ルートは不可能だった。
貿易センターが終点の場合、メイン・ルート直進は端からあり
得なかったのである。
これら事実が明らかになったため、米国では「パレード・ルート
変更説」は完全に廃れており、気のきいた研究書やホームページ
なら『陰謀の神話』という括りで誤認の理由を説明しているものも
あり、最近その量は増加傾向にある。
この説を最初に唱えた研究書はソ連（当時）ＫＧＢの息のかかっ
た反米宣伝本だったが、後に続く研究家たちがもっともらしい嘘
にひっかかったのだろう。
ルートのことをケネディの狙撃前後を中心にしか考えられなく
なったため近視眼に陥り、研究家の嘘に騙され易くなっていたの
だ。
日本のテレビ番組でこんな嘘が流れたのはテレビ局の質の低さを
示すのでなく、陰謀説に都合の良い場合暗殺研究家が誤認を正さ
ないためだろう。
それより問題なのは、上記説明の大半は他ならぬウォーレン報
告書に出ている話で（本文中のパレード・ルート解説部分及び巻
末の『憶測と噂』部分）、引用した空撮写真は報告書に転載されて
いるもので図面も報告書を参考にしたものだ。
この陰謀説は半世紀も前に「陰謀説の嘘」と論破済みのネタ
であるにもかかわらず、日本では今も生き続けている。
これは、ウォーレン委員会批判では筆頭の暗殺研究家たちが
委員会の報告書をろくに読んでいないことと、内容を知っていて
も反論せずただ無視して空理空論を説いていたことを示している。
パレード・ルートが本番当日突然変更になった場合、大統領の
パレードの警備人員の配置も同じように突然変更されるわけだ
が、どうしてこの情報が証言として出てこないのだろうか？
ケネディ暗殺陰謀説の根拠や証拠とは、このような捏造を何百
何千と重ねたものなのである。