離陸30分前
一昨日の夜、辰馬が帰ってきた。
最後に会ったのは2ヶ月前のこと。
珍しく、辰馬の口から「仕事が忙しくて~」なんて言葉を聞いた時にはちょっと疑ってしまったのだけれど、その後ご丁寧に陸奥から電話がかかってきて、その話が嘘じゃないとわかった。
辰馬が借り出されるということは、仕事が立て込んでて猫の手も借りたい状況だったんだろう。
相変わらず忙しさは続いているらしいのだけど、とりあえずは一段落といったところで、束の間の休みをもらって私に会いに来てくれた。
疲れてるだろうから家でゆっくり・・・と思っていたのに、結局ゆっくりしたのは帰ってきた日の夜だけで、翌日はほぼ一日中遊びまわり、さらにその翌日の今日も、ついさっきまで色んな店でたくさん買い物をしてきたばかりだ。
「あの服も似合うと思ったんじゃがのう・・・」
「いや、もう十分買ってもらったからいいって!ただでさえ、もうクローゼットいっぱいなのに・・・」
「そんじゃ、今度は家でも買うか!」
「ちょ、それ冗談に聞こえないから・・・」
「あはははは!」
そして、人影も無くただだだっ広いだけのこの場所で、他愛無い話をしている今に至る。
「そう言えば、あの新しく出来たお店のパスタ美味しかったね?また今度行こうよ。」
「そうじゃのう。店員さんの制服もなかなか・・・」
「・・・何か言った?」
「あ・・・ははは・・・」
ぽっかりと浮かんだ大きな月が、地上を明るく照らしている。
その光の照らす先が私たち2人だけだったのなら、どれほど幸せだっただろう。
「あ、そだ。酔い止めちゃんと飲んだ?」
「お、忘れちょったぜよ!」
「もー、乗り物に乗る30分前には飲んでおかないとダメって言ったのに。また気持ち悪くなっても知らないよー?」
「ん・・・・・・コレでオッケーじゃ。」
目の前にある小舟は青白く光り、その存在を主張するかの如く、暗闇に浮かび上がっている。
「つ、ぎ・・・は・・・」
「お?」
「次は・・・いつ、会える・・・かな?」
「そうじゃのう・・・きっと、すぐ、ぜよ。」
2度と会えなくなる訳じゃない。
数ヵ月後・・・もしかしたら、数週間後にはまた会えるかもしれない。
例えしばらく会えなかったとしても、辰馬は合間を見つけては電話やメールをくれる。
今までずっとそうしてきた。
そうだったから、何度も宇宙へと送り出せた。
それなのに・・・どうして今回はこんなに寂しく感じるのか。
会えなかった2ヶ月間も、特に寂しく感じたことなんてなかったのに。
久々に再開した時も、今までどおりだったのに。
会ってしまったからいけなかったのかな―――?
「すぐって・・・どのくらい?明日?明後日?1週間後?1ヶ月後?」
溢れ出る涙を拭うこともせず、袖を掴んでただただ縋った。
辰馬が今、困った顔をしているのか、呆れているのか、笑っているのか・・・視界がぼやけてよく見えない。
「ねぇ・・・辰馬・・・・・・寂しいよ・・・」
掴んでいた袖が離れて、私は辰馬の腕の中へと収まった。
「のう・・・?」
名前が呼ばれて顔を上げると、大きな手が涙を拭ってくれる。
「そんな顔、せんどってくれ・・・おまんから離れられんようになってしまうきに・・・」
少しだけ開けた視界の先で、辰馬が寂しそうに笑っているのが見えた。
「・・・ごめん。でも、何て言うか・・・今までは辰馬がよく会いに来てくれてて・・・会えることが普通で・・・普通になりすぎてて、会えないなんてやっぱり、寂しいよ・・・」
大きく息を吐いたと同時に、あやすように背中に回されていた手に頬を挟まれた。
「おまんは、ほんっと・・・・・・ちょっとはワシの気持ちば考えてほしいぜよ。」
おでこにゴツンという痛みがあって視線だけ上へ向けると、辰馬の顔がすぐ目の前にあって、さっきまでとは打って変わってちょっとだけ怒ったような顔をしている。
「な、だって・・・」
「どっちの寂しい気持ちがデカイか、なんて言うつもりはない。おまんがワシと離れるんを寂しく思っちゅうように、ワシも後ろ髪引かれる思いでおるんじゃき。それなのに、「すぐっていつ?」だの「寂しい」だの・・・挙句、あんな顔で懇願されちゃ、ワシの理性も限界ぜよ!」
「ちょ、今そんなフザけたこと言ってるんじゃ・・・!」
「ワシはいつだって、おまんのことに関しては本気ぜよ!」
少し上目遣いでこっちを見ている目はほんとに真剣で、むしろそれに照れてしまった私の方が冗談を言ってしまいそうだった。
「・・・ごめん、辰馬。」
視線を落とすと、さっきよりも辰馬の顔が近付いてきて、唇が軽く触れた。
「いーや。謝ることなんぞないぜよ。おまんの気持ちは痛いほど伝わってるきに。」
「・・・ありがと。」
そんなことをしていた間に、辰馬が地球を離れる時間が迫っていた。
自分の気持ちをぶちまけて2人で共有したお蔭か、寂しさは幾分和らいでいるような気がした。
「次のデートで行きたいところとか考えとってくれ。」
「うん。」
「おまんの手料理も食いたいぜよ。」
「うん。」
「また、すぐくるきに・・・」
「うん・・・」
少しだけ吸い付くように音を立てて離れた唇が、ゆっくりと動いた。
「それじゃ、行ってくるぜよ。」
「・・・行ってらっしゃい。」
―完―
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―あとがき―
久々に超激甘を書いた気がするw
出だしはいい感じでポンポン書けたんですけど、後半になるにつれてよくわからなくなってしまって、たったこれだけの話なのに、無駄に時間がかかってしまいましたw
この話、よく酔い止めを飲み忘れる辰馬のことを考えていて、酔い止めって大体30分前くらいに飲むよなぁ・・・とか思ってただけのネタを広げたものなので、話をどう持っていきたいのかとかは一切考えてない状態で書きはじめましたwww
だから、酔い止めのくだり以降はナニ書いたらいいのかよくわかんなくてwww←
とりあえず、いつもなら強がって笑顔で見送る主人公にするところを、ちょっと駄々こねさせてみようかな・・・とか。
辰馬は辰馬で、笑って諭すんじゃなくて、ちょっとムッとしてる感じにしようかな・・・とか。
いつもとは若干違う感じでお送りしてみましたw
ま、どっちの辰馬でも自分は好きです(´∀`)←聞いてません
最近、某BLアニメに悶えすぎてて頭の中BL一色だったんですけど・・・
何かまぁ、色々ありまして辰馬熱が尋常じゃないですwww
もしかしたらまた何か書くかもしれませんが、その時は熱に浮かされてるんだなぁと生温く見守っていただけるとありがたいですw
あー、ほんとマジで・・・二次元行きてぇなぁ、どちくしょう・・・(´Д`)←