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翠雨 ~五月晴れの日に~
よく降りやがる雨だ。
いっその事、ザーッと降ってカラッと晴れてくれりゃあいいものを。
シトシトシトシト・・・まるで泣いているように降りやがる。
“女梅雨”とはよく言ったものだな。
・・・アイツは今頃どんな気持ちで、この雨を眺めてるんだ?
半分だけ開けた窓から、降り続く雨に目をやっていた。
何となく・・・あの日以来、穂希には会っていない。
「今日も雨アルか。ジメジメジメジメ、鬱陶しいネ!」
「仕方ないよ、雨の季節なんだから。」
「いつまで続くアルか?」
「とりあえず、梅雨が明けるまではこんな感じだと思うけど・・・でも、明日辺りは晴れるって天気予報で言ってたよ!」
「マジでか!きゃっほーい!」
「そう言えば・・・銀さん、最近雨の日に出かけなくなりましたね?」
「あ?・・・・・・俺ァ雨は嫌いなんだよ。」
「でも、前はよく出かけてたアル。」
「んな事ねぇよ。」
「ま、別にいいですけど、あんまり部屋の中散らかさないでくださいね!掃除するの大変なんですから。」
気持ちが晴れないのを、天気のせいにする気はねぇが・・・
少なからず、この雨の影響はあるはずだ。
明日は久々にお天道様が拝めるらしい。
・・・ウダウダ悩んでんのは、らしくねぇよな。
待ってたって、気持ちまで晴れる訳じゃねぇし。
とりあえず、思った通りに動いてみるしかねぇ・・・か。
翌日は、予報通りに晴れだった。
単純な俺の心も、それに便乗したように清々しい。
今の俺に、戸惑いや躊躇いはない。
俺なりに、けじめをつけようじゃあねぇか。
奴に会える時間を見計らって、神楽が寝付いた頃に万事屋を出た。
月明かりが照らす夜道を、しっかりとした足取りで歩いていく。
俺は・・・俺が出来る事をする。
アイツの為に、してやれる事をする。
それだけだ。
「邪魔すんぞー。」
裏庭から戸を開けると、机に向かったヅラの姿が見えた。
「調子、戻ったみてぇだな。」
「・・・何しに来た。」
「お前の様子見に来たに決まってんだろうが。」
「貴様に心配してもらう必要はない。」
「はいはい。そうですか。」
俺の方を見る事もなく、ヅラは言葉を返してくる。
「・・・用が済んだなら、さっさと帰れ。俺はお前と違って忙しいんだ。」
「済んでねぇよ。」
「ならば、早く済ませろ。」
「・・・はぁ。なぁ、ヅラ。このままでいいのか?」
「・・・・・・何がだ。」
「わかってるクセにいちいち面倒臭ぇよな、お前。」
「・・・・・・」
筆が止まったのを確認した俺は、ゆっくり話し始めた。
俺の気持ちに答えを出すため。
そして、こいつらが見失った道を照らすため。
「・・・雨をな、好きだって言う奴がいるんだよ。」
女心なんざわかる訳じゃねぇ。
「草木を育むのに雨が必要なように、恋愛にも雨が必要だって。」
わかりたくもねぇ。
「だから、そいつは雨を降らせた。」
だが、アイツの気持ちはわかる。
「本人にとっちゃ・・・まぁ、涙雨くれぇのつもりだったんだろうな。」
俺にとって・・・大事な人間だから。
・・・惚れた女だから。
「でもよ、相手にとっちゃ潤し育ててくれるようなモンにはならなくてよ。」
手に取るように、よくわかっちまうんだよ。
「結局、そいつらはその雨の被害に遭った。」
「お前・・・」
「雨って怖ぇよな。激しい雨に打たれ続けりゃ、壊れちまうしよ。」
「・・・だな。」
「逆に・・・弱ぇ雨を浴び続けりゃ、腐っちまう。」
「腐る?」
「そうだろ?・・・優しさばかり与えられてたんじゃ、歪む事もある。」
「・・・・・・」
「お前、アイツに怒った事あるか?」
「・・・いや、ないな。」
「優しくするのはかまわねぇけどよ、たまにはお前の意見も通せよ。」
「だが・・・」
「そんなんで壊れちまうほど、ヤワな付き合いじゃねぇだろ?」
「銀時・・・」
認めたくねぇが・・・ヅラと穂希のお互いを想う気持ちは、例え嵐が来たって壊れたりはしない。
現に、心がすれ違った今も・・・こいつらはお互いを想っている。
「相手の事を想うなら、お前の素直な気持ちも相手に伝えてやれ。」
「・・・・・・」
「寂しいとか会いてぇとか嫉妬したとか、かっこ悪い事かもしれねぇが・・・いいじゃねぇか。信頼してる相手には、全て曝け出しちまってもよ。」
「・・・ふっ。」
「人が折角いい事言ってんのに、何笑ってんだ。」
「いや・・・まさか、お前がそんな事を言うとは思わなくてな。」
「・・・はは。俺もそう思うぜ。」
「銀時・・・すまなかったな。」
「あ?何だ?別にお前に謝られる覚えはねぇよ。」
「じゃあ・・・礼を言う。」
「感謝される覚えもねぇよ。俺は俺の思った通りに動いただけだ。」
「ふっ・・・そうか。」
「・・・もう簡単に手放したりすんじゃねぇぞ。大事なモンは、テメェで護っていきやがれ。」
「あぁ、そうする。」
「じゃ、俺は帰るわ。」
「・・・世話になったな。」
ウダウダ考えんのもらしくねぇが・・・
人の色恋に首を突っ込むのもらしくねぇ・・・な。
でもま、どっちもらしくねぇなら、前向きな方を選びてぇし。
「明日は団子屋にでも顔出してみるか・・・」
もう少しだけ、お節介をやいてやる。
嬉しそうに歩いて行く穂希の後ろ姿を見送りながら、俺は自嘲した。
「あーあ。俺、お人好し過ぎんじゃねぇか?」
でもま・・・それも悪くねぇみてぇだ。
気持ちをアイツに伝えた時より、今の方が俺の心は晴れ渡っている。
癪に障る話だが・・・な。
「さぁて・・・後はうまくやれよな、ヅラ。」
― El futuro ―