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翠雨 ~篠突く涙雨~



ついに出てしまったこの恋の結末を・・・

私はどう受け止めればいいんだろう。


別れを切り出した私が言うのは、可笑しい事だとわかってる。

だけど、気持ちを簡単に割り切れるほどヤワな付き合いをしてきた訳じゃない。


あの日、私がこんな話をしなければ・・・

今も、2人仲良く付き合っていられた・・・?


・・・いや、それは違う。

我慢に我慢を重ねた心は、きっとどこかに支障をきたす事になる。


ダーリン・・・小太郎が、どんな立場の人間なのか。

よく理解していたつもりだった。

たまにしか会えなくても、心が繋がっているから大丈夫だって。

そう思ってた。


でも、それは自分に言い聞かせてただけだったのかもしれない。


会えない寂しさは、私をドンドン深みへと促していく。

忙しいんだから仕方がないと思っていた気持ちは、いつしか歪み・・・

「どうして連絡くれないの?メールくらい送れるんじゃないの?」と、小太郎を責め立てるような事しか出来なくなってしまった。


そうやって言った後、必ず自己嫌悪に陥って・・・

謝る私に、小太郎はいつも「それだけ俺を想ってくれているのだから・・・」と笑って諭してくれていた。


そんな優しいところが、大好きだったのに・・・


ねぇ、ダーリン。

私たち、このまま終わっちゃうのかな―――。






「お前、いっつも団子ばっか食ってたら太るぞ。つーか、太ってきたんじゃね?」


「・・・ぅるさい!そんな事言うなら、お団子あげないから。」


「あー、嘘嘘!全然太ってねぇから!もし太ったって、俺がいいダイエット法教えてやるから心配すんなって!・・・な?だから、機嫌直して~!穂希ちゃ~ん!」


「もー、銀さんってば・・・」


どうしてなんだろう。

銀さんと話してる時の私は、いつも笑顔でいられる。

心から楽しんでいられる。


それなのに・・・あの人の事を想うだけで、私の心は沈んでしまう。

好きで好きでたまらないのに・・・


「なぁ、穂希。」


「ん?」


「・・・元気か?」


「え・・・?」


「・・・いや。やっぱ何でもねぇわ。」


銀さんは、私の事をよく理解してくれていると思う。

些細な変化も見逃さず、欲しい言葉をかけてくれる。

そして・・・私の事を大事に想ってくれている。


「・・・・・・ありがと。」


「あ?何か言ったか?」


「んーん。何でもない!」


きっとこの人と付き合えば、私は楽しく過ごせるんだろう。


人目を気にせず、白昼堂々とデートだって出来る。

会いたくなったらすぐ会いに来てくれる。

私には、こういうタイプの人が合っているんだ。


そう――― わかっているはずなのに・・・


私の心は、銀さんには靡かない。

どんなに近くにいても、どんなに笑っていても・・・

常に私の心の中にいるのは、小太郎ただ1人。


我ながら、酷い女だと思う。

このままじゃいけないのに・・・歩き出せない私は、この優しさに甘えてしまっている。


銀さんを苦しめ・・・小太郎を苦しめ・・・

自分の心さえも苦しめている、この負の連鎖を・・・

どうすれば止める事が出来るのか・・・




前に1度、寂しさに耐え切れなくなった私は想いをぶつけた事があった。


久々に会った小太郎を前に告げたその言葉たちを、彼は私ごと包み込んで受け止めてくれた。

別に小太郎が悪い訳じゃないのに、たくさんたくさん謝ってくれた。


泣きじゃくる私を抱きしめる小太郎の腕は、とても温かくて・・・

私たちはお互いの想いを確認し合う事が出来た。


その後しばらくは、会えなくても連絡がなくても、小太郎を想いながら過ごす日々は幸せで。

それはいつまでも変わらないと思っていた。


だけど・・・私の心はまだまだ子供だった。

どんなにメールで「愛してる」と言っても、言われても。

それだけじゃ全然足りない。

それどころか、会いたい気持ちが募っていくばかりで余計に苦しくなった。


愛してる


あいしてる


アイシテル


想いから口にしていたその言葉は・・・いつしかただの社交辞令のような。

気持ちもこもっていない、無機質な言葉へと変わっていった。


そして・・・・・・私は別れを切り出した。


そうすれば、きっとまた2人は前よりも深く想い合う事が出来る。

これはきっと、私たちの関係を育んでくれる“雨”になるだろう・・・と。


「・・・・・・イ。・・・オイ、穂希?」


「あ・・・何?」


「いや・・・」


「アレ?お団子、もう食べちゃったの?私の分もあげ・・・」


「なぁ・・・前に、言ってたよな?」


「・・・何て?」


「恋愛にも雨は必要だ・・・って。」


「・・・うん。」


「お前にとっちゃ涙雨でもよぉ・・・相手にとっちゃ篠突くような雨になったりする事もあるんじゃねぇか?」


「え・・・」


考えた事もなかった。

雨は・・・全てに潤いを与え、成長させてくれるものだとばかり思っていたから。


「雨は確かに必要かもしれねぇ。・・・だが、集中的に降れば、打たれ続けた場所は壊れちまう。」


「あ・・・」


「雨ってのは、必ずしも成長を手助けしてくれる訳じゃねぇ。・・・と、俺は思うぜ。」


「銀さん・・・」


本当に・・・銀さんは、私の事をよく理解してくれているんだ。

そして、全てをわかった上で・・・私の事を大事にしてくれている。


「・・・ありがとう。」


「別に。俺ァ思った事を言っただけだよ。」


「あと・・・」


「あ?」


「・・・ごめんね。」


「あー・・・・・・謝んな。お前は悪くねぇ。皆、相手の事を考えて動いたんだ。それで、いいじゃねぇか。」


「・・・・・・うん。ありがとう。」


銀さんの気持ちが温かくて、泣きそうになってしまった。


「泣いてる場合じゃねぇだろ?行ってこいよ。」


そんな私の背中を押してくれる優しい言葉。


「そ・・・だよね。うん!行ってくる!」


笑顔を向けると、同じ様に笑顔を返してくれた。


そんな彼に、心ばかりのお礼を・・・と


「すいません、お団子10本追加で!お金はここに置いときますね!」


言葉では受け取ってくれない気持ちを、お団子に託す事にした。






ダーリン。

私たち、まだ大丈夫だよね。

遅くないよね。


雨が多くて、道がぬかるんでしまっただけ。

空が暗くて、道が見えにくくなってしまっただけ。


でも、今なら見えるよ。

銀さんが照らしてくれた、この道が。

道の先にいる、ダーリンが。


私たちの心は・・・ずっと繋がっているはずだから―――。



                                ― El futuro ―