駅弁小説 | じゃすとどぅーいっと!

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GOD BLESS


五月。

巷では黄金週間だの五月病だのと騒いでいるようだが・・・

攘夷志士の俺には全く無縁なものだ。


だがしかし。

桂小太郎として、今月は外せない行事がある。


それは・・・

ハニーの誕生日。


そして、俺たちが付き合うようになってから4ヶ月の記念日でもある。


日頃の感謝や、俺の想い。

伝えたい事は山ほどあるのだが・・・どう伝えたらいいものか。

考えてはいるものの、どうもいい案は思い浮かばず。

とりあえず、その日一日は誰に邪魔されることもなく過ごせるように・・・と、予定を空けている状態だ。


「誕生日・・・か。」


今まで色んな人の誕生日を祝ってはきたが、今回は少し訳が違う。

ハニーは、俺が生まれて初めて心から愛した、たった一人の女子なのだから。


誰かに相談しようかとも考えたが、やはりそこは自分で考えるのが男であろう。

・・・と言いつつ、コンビニに立ち寄った際に女性雑誌を立ち読みしていたのだが。


最近の女子と言うのは、どうしてこうも物欲があるのだろうか?

ヴィ●ンのバッグやら、ブ●ガリの指輪・・・


別に金額の話をしているのではない。

ただ、男の価値を金額で量っているようにしか見えぬのだ。

全くアテにならん。


自惚れる訳ではないが・・・

ハニーはきっと、俺がプレゼントしたものならば何でも喜んでくれるはずだ。

物の質や量ではなく、俺の気持ちを受け取ってくれる。

そういった心を、一番欲しがっているはずなのだ。


・・・だからと言って、何もプレゼントしないのは男の股間・・・いや沽券(こけん)に関わる。

もちろん、俺としても思い出に残るような物をプレゼントしたいと思っている。


「何がいいのだろうか・・・」


ハニーに直接欲しい物を聞くのが早いのだが、それでは芸がない。

それに、ハニーの事だ。

遠慮して「何もいらない」と言うに決まっている。


「やはり・・・誰かに相談するべきか・・・」


だが、誰に相談する?

女の扱いに一番慣れているのは・・・坂本か。


・・・いや。

アイツこそ、カモにされているいい例だ。

やめておこう。


となると、高杉か。


・・・いや。

アイツが他人にプレゼントをするなどありえない。

やめておこう。


はぁ・・・やはり銀時しかいないか。


・・・しかし。

アイツに聞いたところで、チョコレートだのケーキだの・・・


あ、ケーキ。

そうか、誕生日にはケーキが付き物だよな。

よし、ケーキを予約しておこう!

銀時もたまには役に立つではないか!ははははは!


とりあえず、思い出に残る誕生日にするためのアイテムの1つは決まった。

後は、室内を装飾でもするか?


折り紙で輪飾り・・・では幼稚すぎる。

風船・・・と言うのも色気がないな。

女子が喜ぶ・・・且つ、上品に飾りつけが出来るものと言えば・・・花か。


パソコンで誕生花を調べることにした。


「5月22日の誕生花・・・」


レモンの花。

花言葉は『心からの思慕』と『誠実な愛』


レモンの花と言うのは、花屋で売っているのだろうか・・・?

不安に駆られ、花屋へ出向いてみることにした。


追われる身でありながら、昼間に堂々と出歩くのもどうかと思ったが・・・

ハニーの為を思えばそんな事を気にしている場合ではないのだ。



「いらっしゃいませ!」


「すまない。ちょっとお尋ねしたいのだが・・・」


「はい?何でしょう?」


「レモンの花と言うのは花屋で売っているのだろうか?」


「レモンの花・・・ですか。苗なら売ってますけど・・・」


「そうか、やはり花は売っていないか・・・」


足元に目をやると、黄色の実をつけたレモンの苗が並んでいる。

屈んで眺めると、その実の間から白い花が顔を出しているのに気付く。


そう言えば・・・レモンの花など見た事なかったな。


白くて小さな花。

だが、決して儚い訳ではなく。

しっかりと己を主張するかのような香り。


まるで、ハニーのようだな・・・


「あの・・・奥様へのプレゼントですか?」


声をかけられてドキッと鼓動がはねた。


「い、いや・・・俺は・・・まだ一人身だ。」


「じゃあ、恋人へのプレゼントですか?」


「ま・・・まぁ・・・。そんなところだ。」


「やっぱり!」


「・・・やっぱり?」


「花を見つめている顔が、贈る相手を見ているかのように優しく微笑んでいたので・・・」


どうやら、自分でも気付かぬうちに頬がゆるんでいたらしい。

恥ずかしさで、顔が火照っていくのがわかった。


「その方の事、とても大切に想ってらっしゃるんですね。」


「・・・あぁ。」


「そんな風に想える事も、想われる事も・・・とても素敵な事ですよね。」


「ふっ・・・そうかもしれないな。」


「あの、レモンの花は無理ですけど・・・お花を贈るなら“プリザーブドフラワー”がオススメですよ?」


「ブリザード・・・?」


「プリザーブドフラワーです。」


そう言って微笑みながら店員が手にとって見せたのは、中に赤いカーネーションが入った卵形のガラスケースだった。


「これはドライフラワーと違って生花みたいな手触りなのに、長持ちするんです。」


「そうなのか・・・」


確かに生花を触っているような感触だ。

それに、透明なガラスケースに入っている様が何とも愛らしい。


「今は母の日が近いのでカーネーションがよく売れてますけど、他のお花に変えることも出来るので気に入ったお花があったらお作りしますよ?」


そう言われて店内を見渡すと、たくさんのバラの花に目が止まった。

バラと言えば、赤のイメージだが・・・ハニーには白いバラの方が似合う。


「白いバラの花言葉を教えてもらいたのだが。」


「白いバラは『心からの尊敬』『無邪気』それから・・・『私はあなたに相応しい』と言うのもあります。」


自分がハニーにとって相応しいかどうか・・・断言出来るほどの器量はまだない。

だが、いつか必ず自分でも・・・そして、周りからもそう思われる様な人間になりたいと思っている。


「そうか・・・では、これにしよう。」


「はい!すぐにお作りしましょうか?」


「いや、22日に渡すつもりなのでな・・・前日に受け取りたい。」


「わかりました。では、21日にまたいらしてください!」


「世話になったな。」


「いえ!ありがとうございました!」


幸せな気持ちに包まれながら、花屋を後にした。



とりあえず、大体の下準備は整った。

他にも演出などを考えなければならぬのだが・・・

それよりも肝心なプレゼントについては、一向にいい案が浮かんでこない。


「何か・・・一生残るような・・・」


付き合い始めて初めての誕生日だ。

思い出だけではなく、現物も残るような物をプレゼントしたい。


そう思いながら、街中を歩いていると呉服屋が目に付いた。


「着物か・・・」


これならば、現物をずっと残しておくことも出来る。


色とりどりの着物を眺めながら、ハニーに似合いそうな色を物色する。

すると、男一人でいるのが珍しいのか・・・店員が声をかけてきた。


「いらっしゃいませ!どなたかへのプレゼントですか?」


「あぁ、そうなのだが・・・」


「では、浴衣などはいかかでしょうか?時期的には少し早いですが、たくさん入荷されてますよ!」


「浴衣か・・・悪くないな。」


浴衣コーナーでハニーを思い浮かべながら、着せたいと思う浴衣を探す。


ハニーにはやわらかい色が似合いそうだ。

派手すぎず、地味すぎず・・・ハニーの可愛らしさを引き立たせるような・・・


そして、ある浴衣に目が留まった。

この浴衣ならば、ハニーの肌の色とも合う。


チラリと見えるうなじ・・・

袖から覗く華奢な腕・・・

着崩し肌蹴た胸元・・・

露になる肩・・・


想像しただけで興h・・・何を考えているのだ、俺は。


いつの間にやら、着せる事よりも脱がせる事が目的になってしまった己の思考を元の位置に戻す。


「・・・ゴホン。」


「お客様?どうかなさいました?」


「い、いや・・・何でもない。・・・これをいただこう。」


「はい!ありがとうございます!」


無事にプレゼントも決まった。

演出を考えれば、準備は万端だ。

当日までじっくり考えることにしよう・・・



迎えた5月21日。

ハニーの誕生日前日。


プレゼントの浴衣を持ち、ケーキ屋へ。

予約しておいたケーキを受け取り、花屋へも立ち寄る。


これで準備は整った。

後は演出通りにコトを進めるだけ。

“狂乱の貴公子 桂小太郎”の異名を持つ俺にぬかりはない。


意気揚々とハニーの家へ向かった。


(ピンポ~ン♪)


「はーい!」


両手に荷物を抱えた俺を、ハニーは笑顔で出迎えてくれた。


「どうしたの?そんなにいっぱい荷物持って・・・」


「ちょっとな。」


意味深に笑うと、キョトンとした顔で首を傾げる。


「まぁ、後でのお楽しみだ。」


「・・・そっか。楽しみにしてよ~♪」


「とりあえず・・・」


そう言って、ハニーを抱きしめると


「ダーリン・・・」


応えるように背中に手を回してくる。


「久しく会っていなかったからな・・・ハニーの補給だ。」


「うん・・・私も。」


心はいつも近くにいると感じてはいるが、やはり実際に隣にいるのといないのとでは訳が違う。

交わす言葉は少なくとも、ハニーが目の前にいる事実と伝わってくる体温だけで、俺は幸せになれる。


しばらくの抱擁の後、晩御飯を食べたりテレビを見ながら誕生日までの過ごした。



時計の針が0時をさす。

それとと同時に・・・


「ハニー、誕生日おめでとう。」


「ありがとう、ダーリン。」


「そして・・・」


「4ヶ月おめでとう♪」


「ふっ・・・おめでとう、ハニー。」


ささやかだが、ハニー・・・いや穂希がこの世に生まれてきた事。

そして、付き合い始めて4ヶ月を祝うパーティーが始まる。


「これはプレゼントだ。」


用意しておいた浴衣を手渡す。


「なになに?開けていい?」


「あ、あぁ・・・」


嬉しそうに包みを開けるハニーを見て、こっちの頬まで緩くなってくる。


「気に入らないかもしれないが・・・俺がハニーに似合うと思った物を選んだつもりだ。」


「うわぁ・・・浴衣だ!可愛い~!ありがとう♪」


・・・何だこの、どうしようもなく嬉しくなる気持ちは。

目の前で満面の笑みを浮かべているこの可愛い女子が・・・

俺のハニーなのか・・・


興奮にも似た気持ちの高ぶりを感じながら、もう1つ用意していた物を差し出す。


「それと・・・これも今日の記念に・・・」


手渡した小さな包みを開けながら、ハニーは不思議そうな顔をしていた。


「バラだぁ~!ケースも可愛いっ!」


中身を見た瞬間、歓喜の声を上げた。


「ハニーには白いバラが似合うと思ってな。」


「ほんと!?嬉しい~♪」


この白いバラは、己の決意の表れだ。

だから、花言葉は秘密にしておこう。


「あれ?もう1つ入ってる・・・」


包みの中に、もう1つ同じ形をしたケースが入っていることに気付いたようだ。


「・・・何これ?青い・・・バラ?」


「どうやら初めて見たようだな。」


「うん。青いバラなんてあるんだね!」


「これは人工で作られたものだが・・・最近、誕生したそうだ。」


「へぇ~、綺麗~!」


「青いバラの花言葉・・・」


「知ってるの?聞きたい!」


「不可能。」


「・・・え。」


「昔はそう言われていたらしい。」


「今は違うの?」


「人工物以外の青いバラが誕生してから、変わったのだ。」


「なになに?」


「奇跡。そして、神の祝福。」


「真逆だね?」


「それだけ青いバラを誕生させるのが困難だったと言う事だ。」


「そうなんだぁ・・・」


「・・・俺は神など信じない。」


「・・・・・・」


「だが・・・」


「ん?」


「俺たち2人のことを祝福してくれる奴は1人でも多い方が嬉しい。神でも悪魔でも信じよう・・・」


「ぷっ!ダーリンらしい。・・・でも、私もそう思うな。」


「俺たちの幸せは神のお墨付きだ。」


「あはは!じゃあ、絶対幸せになれるね♪」


「そうだな。ずっと・・・一緒にいよう。」


「うん・・・」


交わした口付けは、今までで一番幸せを感じるものとなった。



君がため 惜しからざりし 命さえ 長くもがなと 思ひけるかな


今日の記念日に・・・この命ある限り、ハニーを幸せにする事を誓おう。



~END~