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ソウルメイト
2月22日 AM0:00
『1ヶ月記念おめでとうございます』
そんなメールが彼女から届いた。
「あ・・・」
別に忘れていた訳ではない。
付き合い始めた日も昨日の事のように思い出せる。
ただ、今日が何日か・・・なんて気にしていなかっただけなのだ。
(・・・はぁ。言い訳だなこれは。)
申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、彼女に返信する。
『おめでとう。これからも俺と共に歩んでほしい。・・・愛している。』
メールじゃ散々こんなキザな事を言ってるくせに、彼女に面と向かって言った事はない。
『一生お前を護る。』
『お前と共に江戸の夜明けが見たい。』
『ずっと俺の隣にいてくれ。』
(フッ!よくもまぁ、こんな戯言が言えたものだ。)
自分を客観視した俺が嘲笑う。
だけど・・・その気持ちに偽りはない。
心の底から、そう思っている。
伝えたいから文字にする。
恥ずかしいから言葉に出来ない。
矛盾。
(情けない・・・)
初めて声をかけたのも、告白したのも彼女の方だった。
本当は、
自分もずっと彼女と話がしたい。
彼女を自分だけのものにしたい。
と思っていたのに・・・
「はぁ・・・」
思い返してため息が出た。
(彼女は何故、俺を選んだ・・・?)
ぼんやりしていたら、急にそんな事が気になった。
まぁ自分で言うのもなんだが、見た目はいい方かもしれない。
だが、周りからはよく「ウザイ」だの「クソ真面目」だの言われている。
それに、俺は指名手配されている身だ。
女子(おなご)に好まれる要素は見当たらない。
それに比べて彼女は・・・
可愛くて、頭が良くて、料理上手。
おまけに優しくて、よく気が利く。
しっかりしてる反面、甘えん坊で涙もろくてほっとけない。
男が求める女の理想像みたいな人間だ。
無論、俺はそんな理由で彼女を好きになった訳ではないのだが・・・
何て言うか・・・感じてしまったのだ・・・・・・運命を・・・
(フハハ!攘夷浪士の分際で何を言っている!)
また、もう一人の俺が笑う。
しかし・・・これも嘘ではない。
本当に、彼女と出逢った刹那に今まで感じた事のない感情を抱いた。
それが何なのかわからなかったが・・・付き合い始めて気付いた。
性格が全く違う二人。
だが、好みも価値観も同じで・・・
考えてる事まで一緒なのだから、これはもう運命としか言いようがなかろう。
(貴様、恋する乙女か!)
うるさい。恋する気持ちに乙女もオッサンも関係ないではないか。
(じゃあ、その気持ち。女子に直接言えるのか?)
・・・それは出来ん。
(見ろ。自分だって恥ずかしいと思っているではないか。)
いや、違う。想ってる事が恥ずかしいのではない。伝えるのが恥ずかしいのだ。
(だらしのない奴だ。そんな事では国どころか女一人護れぬぞ。)
・・・・・・。
自分でもわかっていただけに、返す言葉が見当たらない。
と言うか、全部自分が思ってる事だが・・・
「本当に情けないな・・・」
改めて自分に呆れた。
その日の昼。
1ヶ月記念日と言うことで、彼女とデート中。
・・・と言っても、出歩く事は出来ぬゆえ、彼女の家に来ていた。
「改めて・・・桂さん、1ヶ月記念日おめでとうございます!」
「おめでとう。」
今日も彼女はその笑顔で俺を和ませる。
「はりきって料理作ったんで、いっぱい食べてくださいね?」
「あぁ。お前の料理は本当に美味いからな。」
その言葉に、頬がみるみる赤らんでいく。
(可愛い・・・)
思うだけで言葉に出来ないもどかしさと、己の未熟さにただただ呆れるばかり。
「桂さん・・・?どうかしました?」
「いや、何でもない・・・。さぁ、冷めてしまわないうちに食べるとしよう。」
「あ、そうですね!今、桂さんの好きなお蕎麦持ってきますから待っててください!」
嬉しそうに台所へ向かう彼女に、自然と顔が緩む。
(幸せ・・・だな・・・)
食事が済み、片づけを始めた彼女に声をかけた。
「俺も手伝おう。」
「大丈夫です!すぐ終わりますから!桂さんはゆっくりしていてください!」
「・・・一緒に外を歩くことも出来んのだ。これくらい手伝わせてくれ。」
「桂さん・・・」
「すまんな・・・」
「そんな事・・・気にしなくていいのに・・・」
彼女の手が、そっと背中に回される。
それに応えるように、彼女を抱きしめる。
「私・・・桂さんといれるならどこでもいいんです。牢獄でも地獄でも・・・桂さんと一緒なら幸せです。だって、桂さんが大好きだから・・・」
「俺もだ・・・」
言った直後。
また自分に呆れた。
いつもそうなのだ。
彼女は俺にしっかり「好き」だと伝えてくれている。
だが、自分ときたら・・・「俺も」と返すだけ。
自らの口で彼女に想いを伝えた事はない。
(またやってしまった・・・)
後悔の念に駆られていると
「桂さん・・・」
不意に名前を呼ばれた。
「どうした・・・?」
「キス・・・してもいいですか?」
「ん・・・」
少し屈むと、彼女は目を閉じ口付けてくる。
これもいつものこと。
自分からしたことなど一度もない。
何をする時も、彼女からなのだ。
(だらしのない奴だ。そんな事では国どころか女一人護れぬぞ。)
そう言った、自分の言葉を思い出した。
こんな状態で、これから先も彼女と歩んでいけるのだろうか・・・?
こんな俺、彼女に呆れられてしまうかもしれない。
他の男に取られてしまうかもしれない。
彼女が俺の元を離れていってしまうかもしれない。
・・・それは嫌だ。
国を変える前に、まずは己を変えろ。
己が変われば周りも変わる。
周りが変われば国も変わる。
攘夷活動の基本ではないか!
(何を小さな事で悩んでいたのだ、貴様は。それでも桂小太郎か?)
フッ!貴様、誰に口を利いている!
俺があの有名な桂小太郎だ!ハハハハ!
急に、今までの自分が馬鹿らしく思えた。
自分がそんなくだらない葛藤を繰り広げている間に、洗い物を始めた彼女を抱きしめる。
「桂・・・さん?」
驚いた様子の彼女。
無理もない。
こんな事、今までしてこなかったのだから。
「あの・・・」
彼女の手をとり、泡を洗い流す。
「桂さん?急にどうし・・・」
混乱している彼女を抱き上げ、ソファーへ下ろす。
「あ、ちょっと・・・んっ・・・!」
そして口付けた。
「んんっ!かつ・・・ら・・・さん・・・」
「小太郎。」
「・・・え?」
「小太郎でいい。」
「・・・小太郎さん。」
「愛している。」
「っ・・・!」
「ずっと・・・俺の傍にいてくれぬか?」
「・・・はいっ・・・!」
「一生・・・幸せにする・・・」
泣きながらも、笑顔を向けてくれる彼女を力いっぱい抱きしめた。
「小太郎さん・・・」
「言わずともよい。俺たちの考えている事は同じなのだから・・・」
「そう・・・ですよね」
照れて笑う彼女にもう一度口付け、そのままソファーに沈んでいったのだった。
「小太郎さん。今日はどうしちゃったんですか?」
ソファーに寝転んだままの彼女が聞いてきた。
「いや・・・」
「何だか小太郎さんじゃないみたいで、ビックリしちゃいました。」
「すまん・・・」
「あ、謝らないでください!嫌だった訳じゃないですから!むしろ、嬉しかったですよ?」
「そうか・・・」
「もちろん、普段の小太郎さんもすっごく好きですけど!」
「・・・・・・」
「小太郎さん?」
「いつもお前にはしてもらうばかりで、何もしてやれなかったからな・・・」
「そんな!私が好きでしてることだからいいんです!」
「こんなだらしのない俺では、お前が離れていってしまう気がして・・・」
「そんな事ある訳ないじゃないですか!こんなに小太郎さんが好きなのに・・・」
「俺もお前が好きだ。だから・・・しっかり己の言葉で伝えたかったのだ。」
「小太郎さん・・・」
「お前と共に、この国を変えていきたい。江戸の夜明けを、俺の隣で見て欲しい。それが・・・俺の“望み”だ。」
「望み・・・」
「これからも、俺と共に歩んでくれ。」
「・・・はい!」
江戸の夜明けを見るまでには、まだまだ時間がかかるだろう。
だが、その長い道のりも辛くはない。
この先もずっと・・・お前が隣にいてくれるのだから・・・
~完~