ひたすら作業についていった研修もいよいよ最終日。この日はニホンアブラギリの計測を行いました。
ニホンアブラギリは漆器や金属製品の研磨に使われる「駿河炭」の原木です。
軽くて柔らかいことから、曲面など砥石などで研磨しづらい箇所に適しています。
研磨炭の原木として使えるまでには樹齢およそ20年から30年が適しているといわれていますが、その収穫量は年々減少傾向にあります。こちらの団体さんでは関係機関と連携し、炭づくりの他、ニホンアブラキリの植樹を行いその成長を見守っています。
植樹したニホンアブラキリの生育場所は3日目・4日目の研修先だった窯から車で10分ほどの場所にあります。
2016年に植樹し、毎年11月中旬頃に計測を行い、成長を記録しているそうです。
計測は「胸高直径」[1]「根本の直径」「樹高」の3箇所行いました。研修生3人で手分けし計測。植樹したものにはピンクのリボンがついていて、それぞれ番号が割り当てられています。
これがけっこうな斜面にあり、目線より低いため見つけるのも一苦労。生い茂る草、倒れた木、朝露でぬかるんでいる地面でおぼつかない足取りのスタッフはしっかり記録をとることに注力しました。
[1] 胸高とは成人の旨の高さで約130㎝の位置を指す。
順調に育った木の樹高はおおよそ180㎝から2mほどで、根本の直径は3㎝程度でした。
もっと大木をイメージしていたため、想像より華奢な大きさに驚きつつも、炭になるまでにはまだまだ時間がかかるのか、と思いました。記録用紙の備考欄には昨年までの木の状態に
もっと大木をイメージしていたため、想像より華奢な大きさに驚きつつも、炭になるまでにはまだまだ時間がかかるのか、と思いました。
記録用紙の備考欄には昨年までの木の状態に関して記載があり、よく読んでみると「確認できず」や「枯れ」などの記述がチラホラ。伺ってみると植樹した周辺は台風の影響で倒木が発生し、多量の雨水でせっかくの苗が流されてしまった年があったとのこと。その他は獣害(鹿など)によって食べられてしまうケースも多く、傷がついたことで腐ってしまうこともあるようで、「順調に育った木」というのが過過酷な状況を乗り越えて育ったことがよく分かりました。
上の写真はニホンアブラキリの種の殻。
悲しいことに根付く前に鹿かなにかに食べられてしまったようです。
ここに行くまでは、木は植えたら育つと勝手な思い込みがあったので、こんなにも周りの環境に左右されるとは想像しませんでした。木が育つには年月も必要です。原木が枯渇しつつある状況の中で炭焼きの生産者も減少している側面もあり、一方を解決しても、また一方で他の課題が顔をだす現状を垣間見ることができました。
植えれば解決、というわけではないのですね。
さて、5日間に及ぶ研修も無事に終了しました。
文化財をとりまく材料や道具は他にも様々なものが消滅の危機に瀕しています。
研修を受けた炭・炭焼きもその内の一つです。原材料を「育てる」だけでは問題の解決にはつながらず、必ず「使い手」と「担い手」が必要となります。
いずれも短期間で成しえることは困難です。こちらの団体さんのように技術や材料の現状を危惧し、並行して活動を続けることが日本の文化を支える柱になっていくと思いました。
JCPでもセミナーなどで微力ながら人材の育成を行っていますが、受講生の方々はそれぞれのバックボーンや経験年数の幅も広く、常に問題をリサーチし重要な情報をキャッチしようとされている方が数多くいらっしゃいます。
この記事が皆様の目にとまり興味の一端となることを期待しつつ、様々な情報を発信・啓発していきたいと思います。
途中に生えていたススキに霜が…とてもきれいでした。
完!!