中国、汚職取締り強化の影響は? | JC Bridge 中国ビジネス進出支援ブログ

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深刻な汚職が蔓延する現状

先日、一つの記事が微博(ミニブログ)上で話題となりました。ある新聞記者がとある市民に取材し、「新しい党中央政府が今年から本格的な腐敗退治を開始すると決定しましたが、どう思われますか」と尋ねたところ、市民は暫く考えてから「そう言えば、以前実施した腐敗退治はまさか全て冗談だったの?」と聞き返したとのことです。ジョークのような話ですが、中国に蔓延する汚職の現状を的確に反映しています。


中国は一党独裁の国で、政権交替の制度がありません。野党が形式的に存在するものの、実権を握っていないため、効果的監視メカニズムが存在せず、結果として官僚の汚職が蔓延しています。


指導層交替の度に、新任の為政者は例外なく汚職の取締強化の方針を提唱するものの、結局掛け声ばかりで効果的に実行された例はほとんどなく、反腐敗運動云々はいつも尻切れトンボで終わっています。


「汚職腐敗は政治体制の欠陥から生じた現象で、現行制度の下では根絶することが不可能で、その蔓延拡大をある限度に抑えるのが精一杯である」と中国の著名なアナリストが指摘しています。


中国の汚職腐敗現象はその範囲が幅広く中国社会に深く根付いている事、着服金額が非常に大きい事という二つの特徴があります。まず党の高級幹部、大型国営企業の経営陣にはじまり、地方政府の役員や行政機構の公務員に至るまで、汚職が普遍的に存在し、且つ着服額も千万~億元単位の規模のものが増大しています。


最近暴き出された元鉄道部部長の劉志軍氏の汚職案件では、同氏の着服額が6000万元を超えているとのことです。また犯行暴露後の逃げ道として子女や親族を海外に移住させ、外国籍を取得した親族関係を利用してその不正蓄財を海外に移転する官員も多くいますが、このような官員は通常「裸官」と呼ばれています(「裸官」とは、妻や子供を海外に移住させ、そこを根拠地にして不正に取得した財産を移住先の国に送って隠匿し、自分は「真っ裸」で官位にいること)。


「裸官」現象が多発することは巨額の資金流出を招き、国内経済に多大な悪影響をもたらしてくると共に、政府の公衆的イメージを深刻に悪化させています。中国では、留学が海外への移住を実現する手法の一つで、富裕階層の家庭でも普通の家庭でも子女の海外留学のために全力を尽くしています。米国は中国の特権階級が特に憧れる留学先ですが、このように米国へ押し寄せる現象は「中国人の米国教育への憧れ」とも指摘されています。


統計によると、米国に留学する中国人学生は過去15年で4倍に急増しましたが、中でも共産党高級幹部の子供たちは州立大など公立校へは行かず、ハーバード大学など学費の高い有名私立大を目指すのが一般的です。党の最高意思決定機関である中央政治局の常務委員9人のうち、少なくとも5人の子や孫が米国で留学しているとのことです。


日に日に深刻になる腐敗現象に対し、胡(錦濤)氏政府はその執政期間に効果的措置を講じなかったため、国内メディアや国民から厳しく批判されました。その分、後任の習(近平)・李(克強)体制に対して国民は期待しています。


ロシア科学院極東研究所のヤコブ・ベルガー主任研究員は「習・李体制にとって最も困難な任務は政治体制改革の継続だ。改革を成功させるためには国民大衆の支持が不可欠で、特に腐敗撲滅には並々ならぬ決意と効果的行動が必要だ」と指摘しています。



腐敗退治の方針
習近平氏をはじめとする新しい中央指導層は執政を開始すると、直ちに一連の改革措置を打ち出し、腐敗現象を治め、特に高級幹部の違法行為を糾弾する決意を示しました。これまでのやり方と違うのは、習氏政権が「トラとハエを同時に攻撃し、指導幹部の紀律違反や違法行為を断固として調査し処罰せねばならない」という方針です。


「トラ(虎)」とは庶民の上に君臨して大きな腐敗を行う指導幹部を指し、「ハエ(蝿)」とは庶民の周囲で小さな腐敗を行う官僚たちを意味するものだが、これにより、腐敗退治の対象と退治対策の進め方を明確にしました。 


習総書記の指示に基づき、党中央政治局は調査研究の徹底、会議や活動の改善、文書・報告の改善、海外訪問の規範化、警備業務の改善、ニュース報道の改善、文章・原稿発表の厳格化及び勤勉・節約の励行を内容とした『八項目の規定』を制定し、即ち①倹約を提唱し、浪費に反対することによる政府経費支出の節減、②媒体と世論に対する政府コントロールの強化、③特権階級への特殊優遇の制限を含める改革措置を強く推進する政令を明確に取り決めました。


政令が公表されると、党の高級幹部が率先して励行し、官員外出時の交通管制を撤廃したり海外訪問時の同行人数を減少したりすることにした。その他、会議招待の簡素化、特供商品や専供商品(党内高級幹部だけに供与するタバコや酒、お茶、食材、栄養品など、一般の市販商品より遥かに品質が良い高級消費品)の廃除、企業のリボンカット式典や新商品発表会など商業活動への政府高級官員の出席禁止など、各種の改革措置が確実に実施されました。


「三公消費」
腐敗現象の中でも、特に「三公消費」の拡大が国民の強い不満を招いています。三公消費とは政府官員の海外出張、車両購入及び交際接待によって発生する公金支出ですが、その消費金額が年々増加する趨勢となっていました(表1)。

1 近年の政府機構による「三公消費」の支出金額(億元)

海外出張

車両購入

交際接待

総額

2011

19.77

59.15

14.72

93.64

2012

21.65

44.32

14.98

80.95

2013年(予算)

21.36

43.99

14.34

79.69


注:表中の支出金額は政府の公式発表のデータで、且つ3つの消費項目に限られた金額。実際には政府機構の事務外支出が表の金額より遥かに大きく、一説には9000億元とも言われている。
出典:中国国家統計局



腐敗退治のインパクト
1、自動車産業
表1のデータから、車両購入による公金支出が最も多いと分かった。近年、政府機関と軍隊が単価百万元以上の豪華輸入車を大量購入し、「公車私用」の現象も深刻に氾濫しているので、公務車両に対する管理の強化は腐敗退治の重要な内容とされています。


年初、政府は公務車両の排気量基準と購入金額基準を定め、部長クラス官員用は2.5L35万元以下、副部長クラス官員用は2.5L30万元以下、通常の公務用は1.8L16万元以下と限定しました。これらの実施は、公務用車市場における豪華輸入車(特にドイツ系自動車)と合弁ブランド車両の独占を終焉させ、国内自動車産業又は部品産業に大きな影響をもたらしてくると予測されています。

2、飲食、造酒産業
公金による招宴、贅沢な料理と高級酒類をむやみに消費することも政府機関に普遍的に存在する腐敗現象でしたが、腐敗退治の進行に連れてこのような現象は幾分減少しています。


中国料理協会(China Cuisine Association)が発表したレポートによると、中国政府が公布した浪費抑制や贅沢禁止の方針の影響で、調査対象とされたレストランやホテル100社の約60%で予約取消しが発生しています。商務部によると、春節連休中(2月9~15日)の北京の高級レストランの売上高は35%減、上海では20%超の減、また、高級食材のフカヒレの売上高が前年に比べて7割減、アワビやツバメの巣は4割減とのことで、公費による接待が禁じられた結果だとも言われています。これを受けて高級酒の販売も下落に転じました。


高級白酒(焼酎)の茅台(貴州省産)の株価は5.5%、五粮液(四川省産)、汾酒(山西省産)などの株価もそれぞれ3%近く値下がりしました。特に茅台酒の株式時価総額は、1営業日だけで125億元(約1625億円)減少しました。


3、不動産、贅沢品
近年、政府高級幹部が数ヵ所の不動産(住宅)を保有することでメディアに摘発され、また高級腕時計をつけた官員の写真もしばしばインターネットに掲載され、それで免職された官員が数多くいました。腐敗による失脚を避けるために、不動産を投売りする官員もおり、有名ブランドの腕時計やバッグなどの贅沢品の売行きも大きく減少しました。国家発展改革委員会のある官員は「いくら腐敗退治といっても、度を越えると消費抑制の結果となり、却って経済の発展を妨害することになる」と、懸念を示しました。



総括
今の情況から見ると、習近平総書記をはじめとする指導層の新政策が、確かに腐敗現象の更なる悪化を効果的に抑制しているようにみえる。しかし、その抑制効果が長期的に継続できるか、中央政府の指示命令が各地方で本当に徹底されていけるかは大きな懸念です。


中国には「上に政策あれば、下に対策あり」ということわざがありますが、高級ホテルでの公金による招宴が禁じられると、あまり目立たない完全予約制の私営会所(リゾートクラブ)が盛り上がり、官員たちに公金消費の場所を提供し続けています。このような事例は他にも沢山あります。


また公表されている公費支出は氷山の一角に過ぎず、その実態については依然として不明瞭のままです。


本月20日、四川省の雅安市でマグニチュード7.0の地震が発生して大きな被害が出ました。香港政府は被災地に1億香港ドルを寄付しようとしたが、香港市民に反対されました。


調査によると68.29%の香港市民が被災地への寄付を反対していますが、理由は国内の汚職現象が酷くて寄付金が必ずしも被災地の救援に利用されないとのことでした(2008年四川省汶川地震の時、香港政府から63.5億、香港市民から130億香港ドルの援助資金を寄付したが、その大部分が国内の官員の横領され、被災地の救助と再建に使用されなかったことが後に媒体に掲載された)。


失った国民の信頼と支持を如何に回復するかということは、政府が真剣に取り組まなければならない重要な課題となっています。