クリーヴランドのインタビュー | JAROUSSKY JAPON

クリーヴランドのインタビュー

Interview with Jaroussky in Cleaveland, US


今日はうれしい記事です。前記事のカーネギー公演に引き続き、ジャルスキーはクリーヴランドでも同じプログラムでリサイタルを開きました。その直前のインタビューをbonnjourさん が邦訳して下さいました。今回の記事はインタビュアーが音大在学中の歌手ということもあってか、質問事項がいいところを突いていて、今までのインタビューの中でもひときわ面白い内容となっているように思いました!bonnjourさん のmixi 投稿記事をそのまま転記させて頂きます。


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大成功だったジャルスキーのアメリカでのリサイタル・デビュー。
ニューヨークのカーネギー・ホールに引き続いてコンサートを行ったオハイオ州クリーブランドでは、地元のWebメディア「ClevelandClassical.com」(http://www.clevelandclassical.com/front_page )の取材を受けました。そのインタビューの全訳を下記に掲載します。
音楽家としての彼の考え方や感性がよくわかる、とても興味深い記事ですよ。そして、日本人である私たちにとって嬉しいコメントも!(それが何かは、読んでのお楽しみ)。

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An interview with countertenor Philippe Jaroussky
The ClevelandClassical.com Blog
http://www.instantencore.com/buzz/item.aspx?FeedEntryId=75007
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フィリップ・ジャルスキー(カウンターテナー)インタビュー
The ClevelandClassical.com Blog 2010年1月25日
インタビュアー:クリー・キャリコ(Cree Carrico)

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クリーブランド音楽大学ミクソン・ホールで1月16日、カウンターテナーのフィリップ・ジャルスキーのリサイタルが開かれた。その前日、ClevelandClassicalのインターン、クリー・キャリコはジャルスキーに電話でインタビューを行った。ピアニストのジェローム・デュクロを伴っての今回のコンサートは、来シーズンにジャルスキーと共演予定の演奏団体、Apollo’s Fireが主催したもの。

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<<Part 1>>


クリー・キャリコ(CC): ニューヨークから到着したばかりと聞きましたが。昨日はカーネギー・ホールでデビュー・コンサートがあったのですね。

フィリップ・ジャルスキー(PJ): そうです、昨晩です。

CC: コンサートはどうでしたか?

PJ: うまくいきました!体調は万全だったし、会場が小規模なホールだったことも、うってつけでした。ホールの音響が素晴らしくて、本当に良いコンサートが開けたと思います。とても嬉しくて、またここで歌いたいと思いました。音楽家にはいくつかの夢がありますよね。たとえばカーネギー・ホールに出演すること。そんなの自分には無理だ、そう思っていたことが実現するのは大きな喜びです。その一瞬、一瞬を味わうべきです。

CC: それはワクワクしますね。ミクソン・ホールでのプログラムは、カーネギー・ホールと同じものですか?

PJ: ええ、もちろん。同じプログラムで、フランス歌曲を歌います。自分がよく知られている分野とは違うレパートリーでカーネギー・ホールとクリーブランドでの初コンサートを行うというのは、不思議なことです。でも、これがぼく流のフレンチ・タッチなんです。このプログラムを送り出したとき、実はCDも出しているんですが、とても強烈な反応がありました。フランスでは多くの人から、フランス歌曲はカウンターテナーの声に向いていないと言われました。同じプログラムをフランス国外でも沢山歌ってきました。日本、ブラジル、ドイツ、イギリス、そしてついに、ここアメリカで。この地でフランス歌曲を歌うのは、たぶん道理にかなったことなのでは? というのも、ぼくはカウンターテナーである前にフランス人の音楽家なのです。ですから、ぼくを招いてこのレパートリーを歌わせるというのは、そんなにおかしなことではないと思います。

CC: その通り。フランスの作曲家たちはフランス人のために歌曲を書いたのですから、それをここで披露しない手はないですよね。

PJ: ええ、そんなわけでこのレパートリーを歌うことにしました。ピアノ伴奏だけで歌うのがとても好きです。それは二人の音楽家の出会いです。そして母国語で自分をダイレクトに表現できる機会でもあります。バロックのアリアの場合は、自分が表現すべきものが沢山あるとはいえません。フランス歌曲はぼくにとって、まさに秘密の花園です。それぞれの詩の言葉ひとつひとつを深く味わい、表現できますから。自分にとって、特別なものだといえます。それにしても、アメリカの聴衆の皆さんが(フランス歌曲を)偏見なく受け入れてくれるのに驚きました。フランスでは、フランス歌曲は古くさい、退屈だという偏見があり、邪険に扱われています。事実は正反対だと自分では思っているのですが。フランス歌曲というのはとても新鮮な音楽です。クリーブランドでも、昨夜と同じような反応があるといいのですが。フランス音楽に大きな興味をもってくれるものと信じています。


<<Part 2>>

CC: 音楽というのは聴衆に多くのものを与えますね。そして、ジャルスキーさんの声を通じてこのレパートリーを聴くというのは、いつもと違った体験になるのではないでしょうか。

PJ: ええ、そうです。ぼくは来年もクリーブランドに来ます。Apollo’s Fireと共演するのですが、演目はもちろんバロック・アリアになります。けれど初登場でフランス歌曲のプログラムをやるのは、とてもオリジナルなことです。いつもとは違う。素敵だと思いませんか。

CC: ご自分にとって思い入れのある、自分の一部になっているようなレパートリーでカーネギー・ホールのデビューを飾ったのは素晴らしいことですね。

PJ: はい、その通り。自分を見せびらかすことのできるプログラムというのも存在します。技巧を誇示できるヴィヴァルディやヘンデルのアリアを歌うことも可能でした。けれどフランス歌曲のレパートリー、とりわけ今回のプログラムのような曲を歌うことで、ぼくは自分のパーソナリティーをもっとよく表現できます。これが本当のぼくです、と。

CC: とりわけ好きな曲はありますか?

PJ: 作曲家のレイナルド・アーンが特に好きです。彼の曲を歌うといつも大成功を納めます。彼はフランス歌曲というジャンルにおけるヴィヴァルディのような存在なのです。とても新鮮で、簡潔、そして心の琴線に触れる作曲家です。アーン作品に対する聴衆の反応はとても良くて、ドビュッシーやフォーレをしのぐことも多いのです。彼は実に魅力的な人物で、聴衆を魅了するのが好きでした。彼の音楽を聴けば、それがわかるでしょう。難しくて手強いのは詩の水準の高さです。それぞれの曲はとても短くて、たいてい3~4分の長さですが、そこには完結した世界があります。けれど聴衆にはそれぞれの曲に浸りきるだけの時間がありません。そのことを理解しておく必要があります。あと、ぼくはプログラムを構成するのが好きです。どの曲をどんな順番で歌うか、そして全体をどうやってドラマチックな構成にするかを色々考えるのが好きなのです。

CC: 多くの音楽ファンは気付いていないことですが、カウンターテナー・ボイスだけがあなたの声ではないですよね。本来の声はバリトンですか?

PJ: ええ、そうです。ぼくのバリトン・ボイスはひどいものです。その声で歌う理由はどこにもありません。最初から、カウンターテナーとして歌いたいと思ってきました。どうしてなのか、ちょっと説明できないのですが。たぶん、最初はヴァイオリンをやっていて、高音とハーモニーに惹かれたからだと思います。もし、チェロをやっていたら違っていたかもしれません。他のカウンターテナーたちの行動を見ていて思うのですが、ぼくたちカウンターテナーの多くは、ちょっと永遠の子供みたいな振る舞いをしているところがあります。子供時代の何か、純粋で無垢なものを留めておきたいと願っているのです。ぼくはカウンターテナーとして、生活に影響されない何ものかを見出しているという感じがします。それはとても特別なものです。人々は、たとえカウンターテナーの声を聴く心構えがあっても、いつも最初の一音で驚いてしまいます。中にはカウンターテナーの声は嫌いだという人もいます。反応は常にハッキリしています。中間はなくて白か黒。この声を好きな人と嫌いな人に分かれます。この受け止め方を、ぼくは気に入っています。カウンターテナーの声が好きな人は、付いてきてくれるからです。

CC: 私はカウンターテナーの声が好きで、とりわけジャルスキーさんの声は本当に素晴らしいと思います。バリトンの声では歌わないという決断に感謝したいですね。

PJ: どうもありがとう。声というのはとてもパーソナルなものです。ヴァイオリンやピアノをやっていた頃は、楽器の後ろに自分を隠すことができました。でも声楽ではそうはいきません。声は、ものすごくダイレクトです。それは歌い手のパーソナリティーを直接反映するもので、だからこそ人々は歌手を好むのです。そこには声しかありません。嘘はつけないのです。声楽を始めたとき、自分が真っ裸になっているという感じがしたものです。


<<Part 3>>

CC: 今月号のClassical Singerマガジンの広告ページを見ると、ナタリー・ドゥセやディアナ・ダムラウの隣にジャルスキーさんの写真が掲載されています。そしていくつかの賞も受賞されていますし、世界一流のオーケストラとも共演していますよね。これほど若くしてスターの座に登りつめた秘訣は何でしょう。

PJ: カウンターテナーとして脚光を浴びるのは、簡単なんです。歌手人口が少ないですから。たとえばソプラノだと、才能ある歌手が沢山いるので成功するのは大変です。なんでぼくなのか?おそらく、ぼくが歌い始めたとき、とても高いカウンターテナー・ボイスで歌っていたのが理由ではないでしょうか。10年前にカウンターテナーとしてスタートした頃、数多くの指揮者、そして演出家がカストラートのために書かれた男性役を歌える男性歌手を欲しがっていました。10年前、すべては自分にとってものすごいスピードで動いていました。ぼくは音楽家ではありましたが、身体はまだ難しい曲を歌いこなす準備ができていませんでした。ぼくの声はまだ若すぎて、自分の中で声が成熟し、テクニックも身につけるには何年かを必要としたのです。名声というのは、時として自分では説明のつかないものです。ぼくは色々な人と出会い、沢山の指揮者と数多くのコンサートを開いてきました。そして年月が経ってみると、そこにはぼくに付いてきてくれる聴衆がいたのです。若くして、こうしたことをすべて背負うのは難しいものです。なぜなら、「なぜ、ぼくが?」「自分には、果たしてこれを引き受ける資格があるのだろうか?」と考えてしまうからです。ぼくは本当にラッキーな人間です。自分にとって、すべてがとても順調でした。現在は素晴らしいカウンターテナーが多数出てきたと思います。同業者である彼らを称賛する気持ちでいっぱいです。

CC: オペラとコンサート、どちらで歌うのが好きですか?

PJ: 現在まではコンサートやリサイタルの方を多くやってきましたが、もっとオペラをやりたいですね。役者として成長するにはもっとオペラをやる必要があります。けれど、コンサートのプログラムを構成するのも大好きです。リサイタルは骨が折れることも多いですが。リサイタルというのは一晩、歌い続けて、しかし何かを作り出す時間もあるわけです。これはぼくにとって恐ろしいことです。一方、オペラはそれが丸ごとひとつの社会になっていて、自由はあまりないように思われます。オペラの良いところは、他の歌手たちから多くのことを学べることです。他の歌手たちからの提案に対して反応し、自分の解釈をより深く掘り下げることができます。オペラの後にリサイタルの世界に戻ると、その違いがよくわかるでしょう。でも実際のところ、両方をこなす必要があると思っています。

CC: まったくその通りですね。どちらも、まったく違った世界です。

PJ: とても違っています。コンサートでは自分自身でいることを期待されます。いっぽうオペラは役柄との出会いです。ぼくは役に入り込み、自分のものにするのに2週間の時間が必要です。それはかなり手間のかかることですが、同時に大変に魅力的なものでもあります。

CC: 今後の活動予定についてですが、今回と同じプログラムを他のところでも演奏するのですか?あるいは、この後は別のプログラムをやるのでしょうか。

PJ: パリに戻ると、アメリカでもよく仕事をしているフランスの作曲家がぼくのために書いた曲(訳注:フランス現代音楽の作曲家、マルク=アンドレ・ダルバヴィがジャルスキーを得て作った「カウンターテナーとオーケストラのためのルイーズ・ラベのソネット」のこと)を歌うことになっています。その後は、これもパリで演奏会形式の「ジュリオ・チェーザレ」のプロダクションに参加します。いつの日かチェチーリア・バルトリと舞台で共演するのが夢だったのですが、それがもうすぐ実現するのです。それが終わるとオーストラリアへのコンサート・ツアーに出発です。そこではオーストラリアン・ブランデンブルク・バロック・オーケストラと共演します。今年はあちこち飛び回らなくてはいけないので、とても忙しいのです。すごくエキサイティングですが、同時に怖くもあります。


<<Part 4>>

CC: 他のプログラムも、今回のように色々な場所で長いこと演奏してきたのでしょうか。それともこれが初めて?

PJ:同じプログラムを歌うのは、あまり好きじゃありません。変化を好むほうです。しかし準備が大切です。この仕事は単に歌を歌うだけではない、ということをますます感じるようになってきました。あちこち旅行しなくてはいけませんし、インタビューを受ける必要もあります。それらをすべて念頭に置いたうえで、あまりにも沢山のコンサートを引き受けないようにしなくてはいけません。自分にとって、これは難しいことで、誰かがプロジェクトを提案すると、いつも夢中になってしまうのです。「なんてことだ、これじゃ引き受けすぎだ!」と我に返ることもたびたびあります。声を守りつつ、歌っていかなくてはならないですから。演奏する国や共演者、音楽を変えるのが好きです。そして、ぼくを待ち構えている場所には行かない。驚かせるのが好きなのです。

CC: アメリカでのバロック音楽について、どんな感想を持たれましたか?

PJ:アメリカではバロック音楽に対する関心が高まっていると思いました。毎年、ここでコンサートをやりたいですね。ヨーロッパでは、バロック音楽のレパートリーはよく知られています。新しい聴衆に、バロックは素晴らしい音楽だということを実感してもらえたら、これほど嬉しいことはないですね。

CC: 自分自身が歌手なので思うのですが、私たち歌手は人から見られているという感じがします。ジャルスキーさんの典型的な一日はどのようなものですか?

PJ:典型的な一日?そのような日はないですよ。それがこの仕事の好きなところでもあります。絶対に退屈はしませんから。ある日はまったく初めての土地に行ってコンサートを開く。そして別の日は家にいて、ぼーっとしている。あちこち旅行した後に自宅に何日か戻ると、ただソファにどっかり座ってテレビでも見ていたくなります。歌手になる前はあまり旅行したことがありませんでしたが、この仕事のおかげで、世界を知ることができたのです。何日か自宅にいると、また旅に出たくなります。旅をすればするほど、もっと旅をしたくなるという感じでしょうか。この仕事で得た最良のものといえば、様々な文化や言語を知り、沢山の人と出会えたことです。

CC: ジャルスキーさんは歌うことのほかに、何か趣味がありますか?

PJ: 趣味ですか?ぼくの趣味は、かなりクレイジーなんです。一番好きなのは楽譜探しです。ちょうど、他の人が宝物を探すのと同じですね。手稿譜を探して、インターネットや図書館で長い時間を過ごします。知られざるアリアを収集するのが好きなのです。

CC: ストレス解消としていつもやっていることはありますか?

PJ:睡眠をたっぷり取っています。これは、声のためにはとても良いことです。あと、ここ2~3年はマッサージを受けています。何カ月か歌い続けると、身体の中のエネルギーのバランスを取る必要を感じるんです。大旅行の後のマッサージにはとても助けられています。エネルギーを保つのにすごく役立つのですね。

CC: 私の場合は、ストレス解消の手段のひとつに食べることがあるのですが、ジャルスキーさんは何か好きな食べ物やデザートがありますか?

PJ:好きな食べ物?ぼくは食べることが大好きです。特に赤ワインが。食べ物では、繊細な料理が好みです。美味しいステーキを食べるのは、人生における最高の瞬間のひとつですね。でも、それは時と場合によります。たとえば数カ月前、日本に行ったのですが、日本は最高の食べ物が楽しめる国だと確信しました。「すごいぞ、なんてフレッシュなんだ。それにバラエティ豊かだし」ってね。とても気に入りました。

CC: さて、用意してきた質問も尽きてしまいました。明日のコンサートをとても楽しみにしています!

PJ: 今日はどうもありがとうございました。明日お会いしましょう。それではさようなら。

<<END>>

*インタビュアーのクリー・キャリコは地元のオバーリン音楽院で声楽を専攻する学生で、冬季インターンとしてClevelandClassical.comで実習中。

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bonnjourさん 、いつも本当にありがとうございます!


一年中旅から旅へと、今も昔も名高い音楽家は音楽だけをしているわけにはいかないんだな~。そんな生活の中でジャルスキーがこんな風に考えていたとは‥‥自分の立場をそれ以上でもそれ以下でもなく受け止めて、前向きに努力するジャルスキー。人を驚かせるのが好きなのか~。一番の趣味は楽譜探し、でもちょっと風変わりな一面が自分にもあるということを自覚しているところもいいですね。


『すごくエキサイティングですが、同時に怖くもあります。 』

ますます応援しよう!と思いましたね~。