①「武」とは二つの「戈」を「止める」という意味であり、本来好戦的に戦うのではなく「戦わずして勝つ(自他不敗)」を最良とする平和の精神でもあります。徳川家康はこのことを日本の伝統的な「武学」を通じて学び、260年間にも及ぶ平和な時代の実現に成功しました

 

②その家康が築いた、縄文時代と並んで、日本の歴史の中で最も良かったといわれている江戸時代。しかし、それがどんな時代だったか、その実相を知る人は多くないようです。

 

③テレビの時代劇を見て育った今のわたしたちは、西洋の文物が流入する以前の江戸時代は、いたるところに悪代官や悪徳商人がいて、民衆はしいたげられていた野蛮な時代というようなイメージをもっているかもしれませんがこれは洗脳で、実際にはとても平和な時代だったようです。

 

④江戸の人口は延享三年(1746)には120万人を超え、欧州最大の都市ロンドン(約70万人)やニューヨーク(約2万人)と比べても、世界最大の都市だったそうです。それでも自然と調和し、完全な循環型のリサイクル社会を築いていたのは、やはり日本人ならではのセンスではないでしょうか。

 

⑤「循環型のリサイクル社会」とは、例えば、江戸などの都市部では、長屋に住む借家人が出す糞尿を、家主である商家が汲み取りに来てそれを農家に持っていき、肥料に使ってできた野菜など受け取り、借家人に還元するという仕組みで、糞尿を川に流していた欧州などとは大違いでした。

 

 

⑥実際、1690年から1692年にかけて日本に滞在したケンペル(ドイツ人)は「この民は、習俗、道徳、技芸、立居振舞いの点で世界のどの国民にも立ちまさり、国内交易は繁盛し、肥沃な田畠に恵まれ、頑健強壮な肉体と豪胆な気象を持ち、生活必需品はありあまるほどに豊富であり、

 

⑦国内には不断の平和が続き、かくて世界でも稀に見るほどの幸福な国民である」と記しています。

 

⑧また、幕末に来日したアメリカの総領事タウンゼント・ハリスも「人々はみな清潔で、食料も十分にあり、幸福そうであった。これまでにみたどの国にもまさる簡素さと正直さの黄金時代をみる思いであった」と書き残しているように、長い間にわたってとても平和で文化的な時代が続いたようです。

 

⑨もちろん、今日と同じく、災害や飢饉もあり、一揆などもあったようですが、現代のように殺人事件や詐欺事件や企業戦争などはなく、人々のストレスも今よりはるかに少なくて、自殺、うつ病、引きこもりなどが社会問題になるようなこともなく、政治的混乱や環境問題などもなかったのでしょう。

 

⑩当時の世論調査がないのでわかりませんが、江戸時代の日本人の幸福度は、ブータンのように現代よりもかなり高かったのではないでしょうか?「物質的な豊かさ」ではなく「精神的な豊かさ」なら、現代よりもむしろ江戸時代に軍配が上がるような気もします。