作新学院は来年度創立140周年を迎えますが、本年度は小学部が70周年を迎えます。
県内唯一の私立小学校として昭和29年に発足した小学部は、敗戦の痛手から未来を切り拓く子どもたちを育むため、キリスト教の「愛の精神」に基づいた授業や行事を数多く実践して来ました。
開校当時、2人のカナダ人宣教師から英語を教えていただいたという先進性は今も変わることなく、ネイティブ教諭による英語授業や問題解決型のプログラミング教育などに受け継がれています。
70周年を記念して、小学部文集に以下のような文章を寄せました。
子どもたちに話しかけるように書いたので、稚拙な表現もあるかと思いますが、ご高覧いただけますと幸いです。
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「小さな淑女(little lady)、小さな紳士(little gentleman)であれ。」
70年前、作新学院小学部を創設した船田小常元院長が掲げた教育ビジョンです。
では、具体的にどのような子どもたちが、小さな淑女、小さな紳士なのでしょう?
お行儀が良い子?
大人の言いつけによく従う子?
いいえ、私はそうは思いません。
ちょっと難しい言葉ですが、「自律」と「利他」の両方が備わっている人が、本当の紳士・淑女だと私は考えています。
「自律」的な人とは、自分の頭で考え、自分の心で感じ、問題解決のため自分の意志で行動できる人。
「利他」的な人とは、自分とは直接関係のない人たちのためにも、まるで自分の事のように心を寄り添わせ、力を尽くせる人です。
自分自身をしっかり持つことと、他者に寄り添うこと。
一見、相反することのように思われがちですが、そんなことはありません。
自分を本当に大切にしたいのなら、周りの人たちや自分が暮らす社会、さらにはその延長線に存在する世界中の人々や自然環境のことも、自分と同じように大切にしなければならないからです。
自分さえ良ければ他人など蔑ろにしてもかまわないという風潮が、このところ世界中を暗雲のごとく覆っています。
その結果として、戦争や紛争が起こり、気候変動が生じて甚大な自然災害や感染症などが次々と発生し、多くの命が失われ平穏な暮らしが破壊されています。
自分を愛するのであれば、他者も同じように愛そうーそれが学院歌に何度も謳われている「愛」の精神です。
地球を覆う最新の地質年代は「人新世」と名付けられました。人類の活動が、かつての小惑星の衝突や火山の大噴火に匹敵するような大変化を、地球に刻み込んでいるからです。
人間が欲に任せて勝手に変化させてしまった地球は、もはや人間が全力で愛を注ぎ込まない限り持続できないほど、危機に瀕しているのです。
AIなど加速化する技術革新、地球環境の激変、世界秩序のメルトダウンなど、子どもたちが生きる未来はたしかに混沌を深めています。
けれど、そんな不確実性をおもしろがって、「新時代」を軽やかに果敢に切り拓いて行ける者、それが「作新民」という名のチェンジメーカー。
小学部の小さな紳士・淑女たちが、そう遠くない未来にこの世界を救ってくれることを、私はいま本気で夢見ています。