サラヤ株式会社は、「衛生」「環境」「健康」を事業の柱とし、CSR活動にも力を入れている企業です。主に2つの活動を行っています。

 

サラヤのCSR活動

①  生物多様性保全活動と持続可能なパーム油認証(ボルネオ島)

②  途上国での衛生環境改善(ウガンダ、その他東アフリカ各国)

 

今回は、これらの活動の立ち上げから携わっていらっしゃる、代島裕世さんにインタビューしました。

活動ごとに、前編・後編に分けてご紹介します!

 

代島さん

 

 

■ボルネオ島での活動

 

パーム油 - そもそも、パーム油ってなに?

代島さん:

パーム油って「見えない油」と呼ばれています。食品原料表示の中で、大豆は大豆油って書いてあります。でもパーム油は加工しているので、植物油脂とか植物油って書いてあって、パーム油とは書かれないんです。だから「見えない油」って言われます。

日本で使われているパーム油は、ほとんど食用。コンビニの7割の製品は、パーム油が使われているとも言われています。たとえば、今日(取材日はバレンタイン)も沢山使われていると思うのですけど(笑)チョコレートの裏に書かれている植物油脂。あれはパーム油です。ここのカフェの常温で出てくるポーションタイプのミルクだって、実はミルクじゃなくてアブラヤシのオイルを乳化して白くして、そこにミルクの香料とカゼインなどを入れてるんです。なので、ミルクコーヒーじゃなくて、云わばアブラヤシコーヒーですね、飲んでいるのは(笑)  スーパーとかでよく売っている、植物性生クリームもパーム油を使っています。非食用だとアブラヤシの種から搾るパーム核油も良く使われますが、代表的なものに化粧品、石けん・洗剤、キャンドル、植物性インクなどがあります。

パーム油はダントツ、世界一利用されている植物油です。大豆油を抜いていても誰も知らないってことがすごい、恐ろしいですね。

 

パーム油の歴史と問題 - パーム油っていいもの?悪いもの?

代島さん:

日本で環境問題が深刻になり始めたのは、昭和40年頃です。当時、石油系洗剤が全盛期でひどい水質汚染を引き起こしていました。洗剤の泡立ちが消えないまま、風が吹いたときに近くの洗濯物まで飛んでいったっていう。しかも、厚生省(当時)から、野菜にギョウ虫がいるとか、きつい農薬使っているから洗剤で洗ってから食べなさいって指導が出ていた。それで、この問題を解決するために石油の洗剤に代わってこの時代にできたのが「ヤシノミ洗剤」なんですね。サラヤの創業の原点は昭和27年に日本で初めて製品化した緑色の薬用石鹸液です。この薬用石鹸液はココヤシから搾るヤシ油を使っていたんです。サラヤのヤシとの出会いは創業からになりますね。ただ、途中でココヤシからアブラヤシの油、パーム油を使うようになりました。ココヤシはフィリピンで圧倒的に栽培されているのですが、大きな台風が通過すると倒されて相場が乱れるんですよ。ところがアブラヤシは赤道の下で栽培されるのでそういうことが起こらない。赤道の下は台風も無く、ほぼ無風なので50メーターもある熱帯雨林が真っ直ぐ育つ環境です。ぜひ、一度行ってみてください。この気候的適地でるマレーシアとインドネシアで、アブラヤシの世界の生産量のほとんど、約85%を占めています。そしてアブラヤシは同じ広さの土地開発という視点なら、同じ1ヘクタールから採れる油の収量が大豆の10倍、植えて3年目くらいから採れるんですけど、1本の樹に毎月ひとつ実がついて、それが約25年も続くんです。同じ油を採るためなら、こんなに効率の良い作物は無いと思います。だから生産者は堪らないわけです。

ボルネオ島(*1)ってご存知ですよね。そのマレーシア・サバ州は伐採した木を運べる大河があって、低地熱帯雨林の中でも特に開発しやすかったので、ボルネオ島の中では早くからアブラヤシ農園が広まったところなんですよ。急速に広まったのは90年代くらいから。今はマレーシア側の開発をし尽くした感があるけど、インドネシア側のカリマンタンは違法開発が続いている可能性が高い。マレーシア・サバ州のアプローチし易い熱帯雨林の原生林は日本も高度成長期にコンクリートパネル材になる木を切って切って切りまくったと言われています。それで木がなくなった土地もアブラヤシのプランテーションになったと言われています。そのせいで一昔前は人前に姿を現さなかったボルネオ象が、今は川から見えます。住む場所や食べ物がなくて出てきてしまった野生動物をエコツアーで見ることが出来る皮肉な状況です。

学生にもひとつ覚えてほしいのは「自然資本」Nature Capitalっていう言葉。何億年という時間がかかって作られた自然環境と生物遺伝子が一瞬で壊されているんです。ボルネオオランウータンは、昔30万頭以上いたのが今3万頭強になっている。絶滅危惧種に指定されています。未知の遺伝子資源の損失がどれだけ大きいか。目の前のアブラヤシのために一瞬でそれを葬り去っているんですよ。これが世界的にも問題視されている。でも、この人類が最も利用している植物油=パーム油のためにアブラヤシ農園になってしまった場所を、全て熱帯雨林に戻すのはナンセンスじゃないですか。だから共生の考え方しかないんです。

 

アブラヤシの畑と収穫された実

 

サラヤとパーム油 - サラヤはどのように行動しているのか?

代島さん:

実はうちはテレビ局から番組取材を受けたことが活動開始のきっかけでした。このテレビ番組の放送作家がすごい情報収集力で、この出会いが今のサラヤの流れを教えてくれた。

最初の放送(2004年8月)では、世界でも日本はパーム油に関する問題意識が低いことが取り上げられました。そしてアブラヤシ農園の拡大で行き場を失ったボルネオ象の小象が、人間が小動物を捕まえるためにかけたロープの罠かかって傷ついている現実が放送されました。小象は興味本位で鼻つんつんとか、前足つんつんとか、やっちゃうんです。そして引きちぎって逃げていくと成長とともに鼻や足に食い込んで、その傷が化膿して鼻がちぎれたり、死亡したりしている。こんな事実が環境NGOやマスコミによって世界公開されると感情論が巻き起こる。視聴者のほとんどがパーム油のことなんか知らないから、単純に使わなければいいって反応が返ってきました。その翌年にはサラヤが問題解決に動きだしたという内容で2回目の取材を受けました。2回目の放送(2005年3月)ではサラヤが野生生物局を支援して傷ついた小象を救出する内容と、RSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil =持続可能なパームオイルのための円卓会議 *2)への参加を決めたことが取り上げられ、視聴者の反応もサラヤを応援したいというものに変わりました。

現場の問題を自分でも実際目の当たりにし、テレビ番組でも問題提起した以上、何かしなきゃっいけないということで、積極的にRSPO認証に取り組みました。そして現場で起きている野生動物の保護のために新しい環境NGOボルネオ保全トラスト(BCT)の設立にも関わりました。いろいろ模索してやっと2010年にRSPO認証を採用した製品を発売。RSPOはヨーロッパ市場で環境NGOと企業が対立する状況を解決するためにWWF(世界自然保護基金)が提案してできた団体で、ユニリーバが議長をやっていることでもわかる通り、企業を巻き込んでいます。RSPO認証は、いくつか段階があるんですけど、うちは認証農園までさかのぼれる一番高いレベルの認証と、クレジット購入する認証を採用しています。

サラヤがユニークだと言われるのはボルネオ保全トラストの支援活動。ボルネオ島のフィールドで、ボルネオ象とかオランウータンとかの現状を見てしまったから、新たな環境NGOボルネオ保全トラストをサバ州政府と一緒に作ったこと。本当は最初RSPOでオランウータンを助けてもらおうと思って、RSPO加盟した2005年の総会で会員企業が主要な河川の両岸1キロを森林に戻すことに賛同するっていう提案を出したんです。そしたらアブラヤシ農園と関連企業から、どれくらいの金額損出が出るかもわからず、資料不足だって批判されて取り下げざるを得なかった。

でもパーム油が引き起こしている野生動物が虐げられている問題を解決する何かを作らない。サラヤはもう消費者からの直接圧力が強く、何か課題解決しないとアブラヤシを使えないとサバ州政府に訴えました。サバ州政府も地元経済を支えているパーム油産業が無くなったら財政破綻してしまう。そこでサバ野生生物局と一緒に熱帯雨林の生物多様性を保全するトラストを作った。政府に認可されたトラストです。これに日本人として唯一理事に入ったのがサラヤの社長です。

貴重な生物遺伝子を残すために川沿いの緑を残しましょうって始めたものの、その「緑の回廊」を繋げるのに200億円以上もかかるといわれていて、資金がないわけです。そこで、サラヤがやったのは消費者とのロングエンゲージメント。いわゆるコーズ・リレイテッド・マーケティング。「ヤシノミ洗剤」を買うと、商品の売り上げの1%がBCTの「緑の回廊」に使われますと。これは期限を設けないキャンペーン、2007年5月1日に開始しました。お陰様でこのキャンペーンを始めてから、毎年対象商品の売り上げは僅かでも伸びています。要するにソーシャル・コンシューマーやエシカル消費の中で支持されているということです。この活動を知った新しい若い層が増えてきている。大変ありがたいです。

旭山動物園の坂東園長も理事になっているNPO法人ボルネオトラスト・ジャパン(BCTJ)っていう団体が国内にあります。日本からボルネオ保全トラストを支援していて、ボルネオ象を保護する施設をつくったことが良く知られています。これには大成建設が建設に協力してくれたり、キリンが自動販売機の売上を寄付してくれたり、NTTデータが衛星から測量してくれたりしている大きなプロジェクトです。一般会員数も増えているので、ぜひホームページを見てみてください。

ボルネオ保全トラストの支援は現場では今日解決しないといけない課題を扱っていて、RSPOはパーム油産業を持続可能なものになるために動いている。前者はフィールド、つまり下から、後者は行政、つまり上からの活動。その両方をやっている所がサラヤの特長ですね。

 

野生生物レスキューセンターで象と写真に写る更家社長

 

今後 – これからパーム油をめぐる動向はどうなる?

代島さん:

日本は産業界が動こうとしていて、2020年のオリンピックのタイミングでRSPO認証を調達が居尾度ラインに入れようかっていう話にもなっています。また大手食品メーカーや流通大手が次々と新規RSPO会員になっています。まもなくRSPO認証の即席麺が出て来るかも知れません。

RSPO認証の課題は小規模農家(小農)の認証制度です。小農をいかに助けて全員を置いていかずに100%RSPO認証をするかっていうことです。インドネシアだと6割が、マレーシアだと四割が小農なんですね。その人たちを置き去りにして100%RSPO認証するっていうのはありえない。そこを大企業が支援する動きが加速しています。サラヤも小農からRSPO認証クレジット買っています。SDGs(2015年9月に国連採択されたSustainable Development Goals=持続可能な開発目標)だとNo.8「作る責任、使う責任」。これがエシカル消費に根底にあると思います。買い物で世界を変えるってこと。お金を出すっていうことはそこの企業を応援しちゃってるんです。投票と一緒なんです。企業が生き残ってほしかったら買う。改善すべきだと思ったら買わない。行きつけのお店が潰れるのがいやだったら行くしかないのと同じです。

 

 

(*1)マレーシア領のサバ州とサラワク州、インドネシア領のカリマンタン、小国のブルネイ、の3カ国の領土である島

(*2)RSPO公式サイト https://www.rspo.org/

WWFジャパン「RSPOについて」

 https://www.wwf.or.jp/activities/resource/cat1305/rsportrs/

 

前編はここまでです。来月は後編を公開します!