いさばのばっちゃ
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うちの母さんの出身は、青森県は八戸市。
最近の震災で津波の被害も出て、テレビ中継でも八戸港の様子をよく見かける。
当然その八戸には、親もいれば親戚・知人だってたくさんいる。
近況を知るため、最近青森に電話をかけては、またよくかかってくる。
母さんは、普段は完璧な標準語を使っているけれど、青森に電話をする時だけは思い出したかのように方言をしゃべりだす。
それを見るたびにいつも、器用なもんだと感心させられる。
一回の電話でその後の標準語が崩れる事はないけれど、八戸に数日帰る事でもあれば、その後一週間は昔慣れ親しんだ言葉に戻ってしまう。
僕にはわからない感覚だけれど、母に限らずともそうなるものらしい。
それと同様に、青森の親戚との電話が最近多すぎたせいか、うちにいながらも言葉がなまるようになっていた。
数日前、母さんとテレビを見ていると、また八戸の様子がテレビ中継されていた。
津波の被害が出たのは海岸沿い。その海を背景にして、柄ものの割烹着を着たおばあちゃんがテレビに写った。
その時、
「あ、ばっちゃだ。」
僕にとってなじみのない言葉を、いつもとちょっと違うイントネーションで母さんは言った。
母さんの知り合い、もしくは親戚が映ったのかと思ったので聞いてみた。
「知り合いなの?どこのおばあちゃん?」
でも、母さんは
「ばっちゃだよ。ばっちゃ。」
と、僕が納得できるはずもない答えの一点張り。
「だから、誰なのって?」
ちょっと語調を強めて聞いてみた。
母さんはしばしの間テレビを見つめた後、やっと聞こえたかのようにこっちを向いて答えた。
「ああ、港には“いさばのばっちゃ”ってのがいてね。
ほっかむりかぶってる魚の行商のばあちゃんの事をそう呼ぶのよ。
昔はカゴを背負ったばっちゃが、電車ん中で魚売り歩いてたもんだよ。」
「ふ~ん。」
後になって、母から聞いた事を元にちょっと調べてみた。
・いさば[五十集]
魚を売買する店。また、魚市場や海産物を扱う商人。
・ばっちゃ
津軽弁で、おばあちゃんの愛称のこと。
ちなみに、
おじいちゃんは「じっちゃ」
お母さんは「かっちゃ」だそうです。
さらに調べたところ
今では「イサバのカッチャ」と呼ぶのが一般的とのこと。
魚の行商をしている元気な女性のことを指すようです。
イサバのカッチャ像
母さんが言った「ばっちゃ」の背景には、母さんなりのイメージがあって言ったんだと思う。
例えば、中年の男性を指す言葉にも「オヤジ」「おじさん」「おっちゃん」なんかがあって、
それぞれ言葉の持つニュアンスが微妙に違うと思う。
スーツをビシッと着こなしたダンディーな男性のことを「おじさま」という事はあっても、「おっちゃん」とはあまり呼ばないですよね?
それと同じように、母さんの言う「ばっちゃ」には
「おばあちゃん」という言葉とは違う何かがあるのだろう。
それが見た目なのかもしれないし
元気な様子なのかもしれないし
親しみやすさなのかもしれない。
ひょっとしたら
潮の香りも含めてなのかもしれない。
八戸の映像が流れるたびに、黙りこんでテレビを食い入るように見つめる母。
もうしばらくの間、母の口から聞きなれない言葉が飛び出してくる事だろう。
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