#009 かえるの親はかえる | おもいでのヤンゴ

#009 かえるの親はかえる

おもいでのヤンゴ

小学4年生のときのボクの話です。


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お父さんはよくわからない。

ボクにとってお父さんは、朝仕事に出かけて、夜ふとした時間に帰ってくる人だ。

別に、こわい男の人というわけではなかった。
でも、お母さんみたいに甘えられる人じゃなかった。
それでも、遊んでほしいと思った。
だからお父さんが休みの時はサッカーしようと誘った。
だけど、断られることの方が多かった。
断ったあとのお父さんは、ずっと寝てるだけだった。
それなら一緒にサッカーしてくれてもいいのに。

お父さんは厳しかった。
悪いことをすれば、ゲンコツを頭の上に落とされる。それがすごく痛いのだ。
話かけてくる時は、テストの点数とかあまり話したくもないことばかり聞いてくるのだ。

ボクとお父さんは似ているところが一つもない。
お父さんは、「おまえたちは橋の下から拾ってきたんだよ」と兄弟全員に言ったりもした。
でも、ボクだけは本当に拾ってきたんじゃないか、と確信に近いものを抱えていた。

ある日の夜に電話がかかってきた。
お父さんのお母さん、ボクにとってはおばあちゃんが亡くなったという知らせだった。
受話器を置いたお父さんはうつむき目をおさえ、声をもらしながらからだを震わせていた。

ボクは大人の男が泣くなんて思わなかった。
お父さんにいたっては絶対そんなことはないと思っていた。

その光景を前にボクは、
立ち尽くすことしかできなかった。

やがて顔をあげたお父さんの目は、
見たことがある目だった。

お父さんの悲しみに暮れた目は、
ボクの目にそっくりだった。