#001 ボク
小学生のころのボクの話をしようと思います。
ボクはヤンゴ。
みんながそう呼ぶから、そうだと思う。
気がついたらそう呼ばれていたから、いつから呼ばれていたのかなんて思い出せないや。
この変なあだ名の読み方だけど、疑問文を読むみたいにお尻のアクセントを上げる。
だって、みんなそう発音するんだから、そうだと思う。
ボクは内気だ。
ボクよりもおとなしい子の前ではちょっとつよきな態度をとったりもするけど、基本的には口下手で人見知りな性格なんだ。
ボクは語調が荒い人が苦手だ。
あと自信が顔からこぼれ落ちている人も苦手だ。
そういう人の前では声が小さくなるし、うまくしゃべれなくなる。大きな声で話しかけられでもしたら、目がうるんでくる。
でもどういうわけか、そういう人から好かれることが多い。なんでだろ。
ボクは真面目だ。
「真面目にやれよ」という言葉は形式上あるだけで、世界中の誰もがボクと同じように、何事にでも手を抜くことなく取り組んでいると思っている。
ボクは運動神経抜群だ。
でも自分から口に出して言ったことはない。
ボクは男女差別をしない。
女の子だろうと本気でぶっている。
ボクはお母さんが大好きだ。
お母さんは、自分の子だろうと人の子だろうと区別することなく接していることを、ボクは誇らしく思っている。
いつ、どんなときでも、お母さんの気をひくチャンスを探しているし、何とかしてお母さんをよろこばせてあげたい。
ボクはお母さんの作ったお弁当は好きになれなかった。
ひじき、あえ物、おひたし、水分が出てご飯に色がつくようなものばっか入っていた。そういうものは「いただきます」の前に、ぬかりなく確認をしておいた。だって、みんなに見られたくなかったんだ。
そして、「いただきます」のピストルと同時にお弁当箱のふたを開けて、まっ先に口の中に隠すようにした。
ボクは憶病で心配性だ。
みんながやることが「正解」に違いないから、ボクは「間違い」をしないように必死に立ち回った。先回りして情報収集して、正解したら鬼の首をとったように吹聴して、間違えたら必死に言いわけをする。
ボクの小さな心臓はこうやって、今日までかろうじて生きのびてきた。
ボクはうそつきだ。
でも、うそはうまくない。
うそをついた後、決まって脳みそがむらさき色に支配され、胃からのどにかけて気持ち悪さがまとわりつく。
すごく嫌な感覚だけど、それを忘れたころにはまたうそをつく。
ボクには神様が何人もいる。
神様に「何人」だなんておかしいけど、ボクはまだ神様の数え方を習ってないから気にしないことにする。
ボクには確かなものは何もない。
だから、明日もボクでいられるのか、毎日それだけは不安でしょうがなかった。