飛行試験-2
6 旋回半径(飛行後半)
減速し、傾きがほぼ水平に戻った状態でも、同じ半径で旋回し続けさせたい。
この時の旋回半径の調整は、「打ち出し初期」とは別の調整が必要になる。
巡航飛行で、一定の旋回を安全に行う方法として、
スタブチルト(スタビライザー・チルト)がある。
水平尾翼を故意に傾けて取り付けるのだ。
この場合、尾翼を大きめに、かつ重心位置を後ろに置いた設計にし、
水平尾翼に自重を一部負担させておく必要がある。
模型飛行機の用語として、これを揚力尾翼と言う。
こうすることで、水平尾翼は上向きの揚力を発生させることになるから、
尾翼の傾きによる横向き分力によって、
尾部を横に押し、旋回させることができるのだ。
この方法の良い点は、機体が傾き、水平尾翼自身が水平になれば、
横向き分力がゼロになり、それ以上強い旋回をさせようとしないことだ。
もし、エルロンやラダーで調整すると、どこまでも傾きを増そうとするから、
一定の旋回に維持することが難しくなる。
7 上昇と降下(飛行後半)
速度が落ち、これ以上水平飛行ができなくなる最後の一瞬まで、
軌道を乱さず飛んでもらいたい。
そのためには、失速直前まで高度を維持させなければならない。
検討してみる。
これまでの検討で、機体に与えた性質は次のとおりだ。
これらは基本変えることはできないものと考える。
① 高速飛行時の・・・・旋回半径維持のための・・エレベーターアップ量
② 高速旋回時の・・・・上昇、降下を決める・・・ラダー量
③ 希望する・・・・・・旋回半径を邪魔しない・・エルロン量
④ 低速水平飛行時の・・旋回半径を決める・・・・スタブチルト量
これらを変えないで、失速するまで高度を維持させたいわけだが、
はたして可能なのだろうか?
ポイントは、高速旋回用のエレベーターアップ量を維持したまま、
水平飛行に移っていく点だ。
この状態で、低速時の機速を高めにセットしたいなら、
⑤ 重心位置を、前加減にすればよい。
逆に機速を低めにセットしたければ、重心位置を、より後方に置けばよい。
実際の重心位置は、減速後失速するまで高度が一定になる位置を、
実験的に見つけ、そこに置けばよいことになる。
8 旋回半径の維持と高度の維持
物理の基本的な公式をおさらいしてみる。
遠心力の公式は、 = m×r×ω^2
翼に働く空気力の公式は、 = 1/2×ρ×v^2×S×Cw
思いっきり簡単に説明してみると、
・遠心力は、ωつまり角速度、つまり旋回中に角度をどのくらい変えていくかの二乗で効く。
・遠心力に対抗する空気力は、vつまり飛行速度の二乗で効く。
つまり旋回半径が一定なら、どちらも速度の二乗で効くというわけだ。
だから基本的に同じ半径で旋回できるという土俵の上にいることになる。
但し、旋回後半で、水平に近くなって以降、
失速速度よりまだ早いにもかかわらず、自重を支えられなくなり高度が下がる点に問題が残る。
これを補うため、実際には式の最終項、
空気力であるCw(又はCL揚力係数)を大きくしていき、
高度維持と遠心力へ対抗することになる。
その後、速度が限界まで下がり失速すると、高度が維持できなくなり、
軌道から外れてしまうわけだ。
後の号の中で、的を2回通過し、
ハンドキャッチした動画をお見せしたいと思うが、
水平飛行の後、失速し、キャッチしている様子がお分かりいただけると思う。
9 実際の全体調整
理屈だけで言えば、これら①~⑤を調和させればよいのだが、
実際はそう簡単にはいかない。
調整しても効果が出なかったり、2倍、3倍と効きすぎることもある。
また、全ての舵は、希望しない別の効果も、しっかり同時に発揮してしまう。
全ての舵が、希望した効果のみに分離して、効いてくれればよいのだが、
現実には複雑に絡んでいる。
アクロバット用の実機などでは、舵はきれいに分離されるように設計する。
だから美しく飛べるのだ。
もっと困るのは、調整を変えないように細心の注意を払って打ち出しても
(変えていないつもりだが)、毎回軌道がばらつくことだ。