シンケン VS カクレ "忍侍超変化" その2 | 茶腹も一時

茶腹も一時

原作不足の飢えを蛸の身喰いでしのぐ二次小説群。
ジャンルは主に特撮、たまにそれ以外。まれに俳優・松山英太郎さんの備忘録。


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●第一幕 ~流ノ介   【挿絵有】

 夏の陽光を受けて、庭園の池の水面が光る。
 退魔の家系である志葉家は現代日本においても外道衆と呼ばれるアヤカシと戦う第一線の武家であり、邸宅も、戦後の農地改革をものともせず立派な武家屋敷を誇っていた。
 当然庭も隣家の屋根が見えないほど広く、澄んだ池には幾匹もの鯉が緋色金色の尾びれを翻して泳いでいる。
 こう暑いと鯉が羨ましく思えてくる。
 しかし、侍たるもの、だらけた顔はできない。武士は食わねど高楊枝というやつだ。池波流ノ介は汗ばんだ手で竹ぼうきをぐっと握り締める。
 なのに。
 額に汗して耐える己の横で、ほうきを振り回しながらぼやく者がいる。
「ああ~、暑ぃ。プール行きてえ。つかこの池、入っちゃダメかな」
 谷千明。
 年齢は流ノ介とそう変わらないが、性格は正反対である。流ノ介は渋面を作って見せた。
「馬鹿を言うな。暑いのはたるんでいる証拠だ」
「流ノ介は暑くねえのかよ」
「あ、暑くないっ」
「汗ダラダラじゃん。それともアレ? 梶木折神とか龍折神とか使うと涼しいの?」
「折神はそんなことに使ってはいかん」
「判った。モヂカラだろ。『氷』とかさ」
「モヂカラも私利私欲に使ってはいかん! 大体いつ外道衆が出てくるか判らないのにモヂカラの無駄遣いなどできるか」
 モヂカラとは文字通り文字の力、言霊を駆使する力である。
 このモヂカラと、式神に似た『折神』、そして色々な力を織り込んだ秘伝ディスクを駆使して外道衆に立ち向かう六人の侍、それが侍戦隊シンケンジャーなのだが、外道衆が姿を見せずましてこうも暑いとなると皆、普通の若者らしさを垣間見せてくる。
 さっそく、松の木の下を掃いていた白石茉子と花織ことはがほうきを立てかけて寄ってくる。
「え、流ノ介、『氷』のモヂカラで涼んでるの? 意外だなあ、真面目だと思ってたけど」
 悪戯っぽく笑う茉子に流ノ介は慌てて否定する。
「していないっ!」
「ウチは氷いちごがええなあ」
「いや、ことは、かき氷の話じゃない」
「殿様ー」ことはは庭石の陰を掃いていた志葉家十八代目現当主・志葉丈瑠に手を振る。「殿様も流さんに書いて貰わはったらどおですか?」
「ことは! 暑いからといって、殿がモヂカラに頼ったりするわけがないだろう」
 流ノ介が叱り付けると、丈瑠は微妙な表情をした。
「あ、いや、うん」
 あれ?
「書いてもらう気が結構あったんじゃないの、丈瑠」
 茉子の追求に丈瑠は視線を逸らしてほうきを動かす。



茶腹も一時-第一幕


 千明が流ノ介の背中を叩いた。「流ノ介、これもモヂカラの修行だよ。修行」
「う……いやいやいやっ」
「大体、庭の手入れは黒子ちゃん達がやってくれるんだから、俺達でやんなくてもいいじゃん。だだっ広いしさ」
「剣の稽古で使う場所は自ら清める! これぞ礼に始まって礼に終わる剣の道」
「でもまあ、これぐらいでいいんじゃないの。お昼ご飯が来たし」
 茉子が指差す。
 指先の方向に屋台が見えた。
 六人目の仲間である梅盛源太が引く寿司屋の屋台である。
「皆、待たせたな!」
 樫の木陰に陣取って、源太は手際よく椅子を並べた。
「冷た~く冷やした寿司ネタどっさり持ってきたぜ、じゃんじゃん握るから言ってくれ!」
「来たよ、普通寿司が」千明が暖簾をめくる。
「暖かく冷やすっていうのはできないよね、常識的に考えて」茉子が冷静に指摘しながら椅子に腰掛けた。
「普通って言うなぁ! あと揚げ足取るんじゃねえ! で、何握るよ」
「余計暑くなった気がする」
 言いながらも口元はわずかに優しげに、丈瑠がほうきを置いて歩み寄る。ことはも「氷いちごあるかなぁ」と、ふわふわの髪を揺らして後に続いた。
「いや、それは握れないだろう」
「氷はあるだろうが、生臭いぞ」
 口々に言いながら坐る。
 しかし長くは涼めなかった。一同が木陰に入り腰掛けたのを見計らったように、家老の日下部彦馬と黒子が駆けて来た。
「殿! 外道衆が現れましたぞ。場所は」
 黒子が広げた地図を彦馬が指し示す。
「六五三番」繁華街だ。
「行くぞ」
 丈瑠が立ち上がる。全員が頷いて立ち上がった。

(つづく)


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※イラストはスクラッちさん に描いていただきました。
 ありがとうございました!


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