自衛隊とデータリンク、集団的自衛権との関係は? | 因幡のブログ

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海上自衛隊のあたご型イージス艦「あしがら」。これからの改修でCEC(共同交戦能力)を備える。
(画像引用 海上自衛隊ホームページ http://www.mod.go.jp/msdf/formal/gallery/ships/dd/atago/178.html より

 昨年成立した安全保障法制で、我が国は平素から認められていた個別的自衛権のみならず、限定的な集団的自衛権を行使できることになりました。そこで注目されたのが、これからお話しするデータリンクと集団的自衛権との関係です。

集団的自衛権とは?
 ではデータリンクのお話をする前に、簡単に集団的自衛権について説明しましょう。集団的自衛権は国連憲章第51条に規定され、全ての国連加盟国に認められている権利です。集団的自衛権について、我が国では以下のように定義されています。

「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利」

 従来の憲法解釈では、集団的自衛権は憲法上許容される自衛権の必要最小限度の範囲を越えると解されたために、「持っているが、憲法上行使できない」とされてきました。しかし安倍政権は、現在の安全保障環境を考えれば、集団的自衛権も必要最小限度の範囲内であるとし、憲法解釈を変更した上で、これを行使可能としました。さらに、集団的自衛権を行使する事態として、新たに「存立危機事態」を定めました。存立危機事態とは、

我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態

というもので、つまり我が国と関係の深い国が攻撃を受けた事態(存立危機事態)が起きた場合には、我が国は集団的自衛権を行使出来ることになったわけです。

データリンクと集団的自衛権

 集団的自衛権について簡単にまとめた上で、では本題に入りましょう。そもそもなぜデータリンクと集団的自衛権とが関連してくるのでしょうか、まずはそれを理解するために、平成14年の石破茂防衛庁長官(当時)の国会答弁を、ちょっと長いですが見てみましょう。

「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を自国が直接攻撃されていないにもかかわらず実力をもって阻止することが正当化されるという地位を有するということが集団的自衛権というふうに考えております。そしてまた、我が国が集団的自衛権を国際法上有していることは 主権国家である以上当然であるが、こういうフレーズが続くわけですね。 そうしますと、実力をもって阻止するとは一体どういうことなんだとい うことを考えてみたときに、データリンク、リンク11 でもリンク16 でも 基本的には同じことですが、それが実力をもって阻止するということに当たらないということは、これはどなたでも御理解をいただけることだろうと思っています。 そうしますと、従来の政府答弁で、野呂田長官が、何時何分の方向撃て ということであれば、それはいわゆる一般的な情報の提供には当たらない ということを申して答弁をされた例がございますが、そういうような場合になれば、これはあるいは一体化という議論が出てくるのだろう、集団的自衛権、憲法が禁止しておる集団的自衛権の行使につながるおそれという、 少なくともそこの範囲までは入っていくのだろうというふうな認識をいたしております。 今回のデータリンク、もちろん今回出す船が従来のものと変わっておる わけではございません。イージス艦は今リンク16 というものに換装中でございまして、新しいリンクシステムを持つようになります。しかし、ただ、これは量的差異であって質的差異であるとは考えておりません。そのことを前提にして申し上げましたときに、何時何分撃てというようなこと が米軍と我々との間で起こるということはございません。そして、集団的自衛権というものの行使それ自体ができないということになっておりますわけで、そういうことに抵触するような行為を私どもはやることは考え ておりませんし、それは当然法の趣旨にもそぐわないものというふうに理解をいたしておるところでございます。」(平成 14 年 12 月 5 日 参・外交防衛委 石破防衛庁長官答弁)

 大変長い答弁ですので要約すると

・我が国は集団的自衛権を持っている
・そこにある「実力をもって阻止する」ということは、自衛隊が有するデータリンクであるリンク11やリンク16ではこれに当たらない
・しかし「何時何分の方向撃てということ」になれば、集団的自衛権の行使に当たるおそれがある

ということになりそうです。つまりリンク11やリンク16といった従来のデータリンクならば、米国との間で「何時何分の方向撃て」ということは出来ず、憲法上の問題は生じないけれども、仮にそういった「質的な差」を生じるようなものが出てくれば、これは集団的自衛権に関わってくることになるわけです。

質的な差が生じるNIFC-CA
 では我が国はこのようなデータリンクを有しているのかといえば、現状はありません。しかし、実は将来この能力を有することが決定しているのです。それが、海上自衛隊のあたご型イージス艦2隻と新造のイージス艦2隻に付与されるCEC(共同交戦能力)と、それにより可能となるNIFC-CA(海軍統合火器管制-対空)というものです。

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(NIFC-CAのイメージ図 筆者作)
ではざっとNIFC-CAについて簡単に説明していきたいと思います。 NIFC-CAの鍵となるのは、E-2D早期警戒(管制)機・CEC(共同交戦能力)端末を搭載したイージス艦(ベースライン9A/C)・そしてSM-6です。まずE-2D早期警戒機、あるいはCEC搭載イージス艦が、敵が発射したミサイルを探知します。そしてこのデータをデータリンクによって付近のCEC搭載イージス艦に送付します。ここで重要なのがデータを送付された側のイージス艦にはまだ目標を探知出来ていない状態という点で、つまり見えていない敵があたかも見えている状態になるわけです。そしてこの送付されてくるデータに基づき、見えていない目標にSM-6を発射します。SM-6は発射された艦から誘導を受け、発射艦から見えない位置に来ると今度は付近のイージス艦が誘導を担当します。そして最終的にSM-6の弾頭部にあるアクティブレーダーシーカー(自ら電波を出して敵を捜索するセンサー)によって目標を捜索・迎撃します。
 つまりNIFC-CAとは、早期警戒機やイージス艦が相互のデータリンクで大きな目を作り、ミサイルを迎撃するシステムと言えます。これに必要な能力を、海上自衛隊のイージス艦が備えることになるわけです。
 米海軍との間で、海上自衛隊のイージス艦がCECを通じてレーダーの情報をやりとりすることになれば、従来の政府見解では集団的自衛権の行使に当たる可能性がある「質的な差」を生じるような、射撃管制に直接使用できるような精密なデータのやり取りができることになるのです。
 そこで問題となるのが、もし海上自衛隊と米海軍のイージス艦がなんらの武力攻撃を受けていない平時において、急に攻撃を受けるような事態、いわゆるグレーゾーン事態において、このNIFC-CAが使えるのか?という点です。

データリンクの解釈
 なぜ問題になるのかと言えば、例えば我が国が攻撃をすでに受けた状態であれば、NIFC-CAによる連携も、個別的自衛権の範囲内で説明が出来ます。何故なら我が国が攻撃を受けている場合、海上自衛隊と連携している米海軍は日米安保条約に基づいて、我が国を防衛するために行動しているためです。しかし平時において同様の事態が起きた場合、これを実施するためには集団的自衛権に当たるために、この米海軍に対する攻撃が「存立危機事態」に認定されなければなりません。しかしミサイルの速度などを考えれば、事態に認定してから米海軍に情報提供を開始する、ということでは手遅れになります。
 そこで政府は、このNIFC-CAなど「質的な差」を生じるデータリンクに関して、とある考えを打ち出しました。
それをまとめると

従来から集団的自衛権に当たると考えられてきたのは「何時何分の方向に撃て」という目標を指示するような情報提供
・しかし「ここをミサイルが飛んでいます」という情報提供はこれには当たらない
・米側にこの情報提供をして、結果的に米側がこれを迎撃しても、我が国は飛翔データを提供しただけで、射撃の指示をしたわけではない
・よってこのようなデータの提供は武力行使の問題を生じない

 つまり、射撃指示のような直接的な情報提供は、武力行使と一体化してしまい、集団的自衛権と密接不可分となりますが、単なる飛翔データの提供のみならば、データをどう扱うかは米側に委ねられているので、結果的に米側が迎撃したとしても、我が国は関係ないという理屈になります。これならば、平時からの情報提供の延長として、海上自衛隊がNIFC-CAに加わることも、問題はないということになります。

 とりあえず今回は少し簡単にまとめる形にしましたが、いつかもっと細かく分析していきたいて思います。