「時価会計不況」伝説 | ぶっちゃけ税理士・岩松正記のブログ

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仙台市の税理士、岩松正記が書く、起業・ビジネスネタを中心に、ときどき読感やセミナー感想など。
山一證券の営業、アイリスオーヤマの財務・マーケティング、ベンチャー企業の上場担当役員等10年間に転職4回と無一文を経験後に開業。
モットーは「一蓮托生」

本書は本格的な論文調の内容。
これだから新書はあなどれない。

時価会計不況 (新潮新書)/田中 弘
¥714
Amazon.co.jp

著者:田中弘
職業:大学教授
発行:平成15年(2003)

目次
第1章 金融ビッグバンは「猛犬の放し飼い」
第2章 時価とは何か―「ヌエ」の正体を探る
第3章 「株は時価で売れる」という妄想
第4章 錬金術に毒されたアメリカ型資本主義
第5章 時価会計の破壊力
第6章 時価会計の情報力と原価会計の情報力
第7章 どこの国も使わないはずだった国際会計基準三九号




本書は「時価会計」を痛烈に批判する内容になっています。

かつて騒がれた「会計ビッグバン」。
これに伴い、我が国の会計処理方式に
「時価会計」や「税効果会計」「減損会計」など
私が受験した頃には無かった会計の方式が次々採用されてきました。

ホント、今の税理士や会計士の受験生は大変・・・というのはさて置き、

著者は、これら我が国で「国際的な基準」として受け入れられた会計処理方式が
「どこの国でも使っていない基準だった(p.10)」と述べ、
時価会計が不況の原因であると痛烈に批判します。


著者によると、時価会計は「会計の歴史でもあり、失敗の歴史(p.179)」であり、
これまでいかなる問題も解決してこなかったのだそうです。

時価会計は経済変動があると必ず台頭して来る。

なぜならば時価会計は
「国を挙げての株価操作や経済界ぐるみの利益操作を公認(p.130)」
するものだからだ、と手厳しい批判を繰り返します。


著者がこれほどまでに批判する「時価」ですが、
この意見は、私もなるほどと思います。


例えば、貸借対照表において、株式の帳簿価格が
買った時の値段(取得価額)で記載されているのを
今の時価で評価したとします。

時価というのは市場価格、つまり、今売ればこの値段で売れる
という価格ですが、よくよく考えれば、
この価格で売れるという保証は全くありません。

むしろ、株式など、
実際に売りに出せば、
「時価」は間違いなく変動します。

だから、市場価格とか時価などというものは
実際にその価格になることなどないのだから
インチキである」と、筆者は手厳しく批判するのでした。



確かに、実現していないものを「時価」というのは
何か腑に落ちないものを感じます。

それを過度に評価、評価というのもどうなのか。
会計担当者や監査法人(公認会計士)の仕事を増やすだけではないのか。


まあ中小零細企業には無関係な話ですけどね(^^;


会計の勉強で必ず出てくる、
しかも誰もが絶対的真理、正しいものとして信じているものを
真っ向から否定する、その論理の明確性。

この本はその意味で
新書ならではの薄さにもかかわらず
非常に骨太な内容です。

実務に関わっている人はもちろん
会計や財務に携わっている人も是非ご一読を。。。

あ、ただ、
税理士・会計士受験生は点数取れなくなるから
読まない方がいいかも(笑)





時価会計不況 (新潮新書)/田中 弘
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【この本に学ぶズルと工夫】

2011年3月期の上場企業の決算から
「当期純利益」という記載が無くなり、
代わって「包括利益」という概念が採用されるようになります。



包括利益とは

貸借対照表を重視した利益概念であり,資本取引を除いた純資産の変動である

とか

会計上の純利益に土地や有価証券の未実現利益(損失)のうち
純利益に反映されていないものを加算した利益概念

と定義されるものですが、これを著者は
「利益として報告できるものなら何でもかんでも(p.104)」利益とするものであり、
株価を上げるためのものだ、と批判しています。

この本が書かれたのは2003年ですから、その当時から懸念されていたものが
いよいよ導入される訳です。

この先一体どうなるのか。

逆に、株価にはプラスになるといいのですが・・・。


著者の言うとおり、これら外国産の会計基準は、株価操作のためのものだ
というのであれば、これは・・・株は買い!ってことですかね(^^;

もちろん、これは投資の勧誘ではありませんのでご注意を(笑)