虹色の光 | 一斗のブログ

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2011年6月15日に小説を出版しました。
出版をするにあたっての様々なエピソードや心の葛藤、病気の事等書きました。今はショートショート(超短編小説)やエッセイ等を載せています。宜しくお願いします。

一日中家にこもりぱなしだった日の夕方、


僕は以前から気になっていた銭湯へ行ってみようと


思い立ち、タオル、シャンプーなどを鞄に入れ家を出た。


バスを使えば10分くらいで着くのだが、普段は全く


運動していないのでたまには体を動かさなければいけないと


思い歩いて行くことにした。


30分ほどで目的の銭湯に辿り着き中へ入るとそこには


僕がまだ幼かった頃の、懐かしい昭和時代の日本があった。


そのノスタルジックな世界にタイムスリップしたような感覚に


ひたり、しばらくの間感傷的な気持ちになりながらも、人が少ない内に


湯ぶねに浸かりたかったので急いで服を脱いで浴場へ入った。


浴場には僕以外にはご老人とおそらくお孫さんだと思われる4~5才くらい


の男の子がいるだけだった。


僕はそのふたりより少し離れた場所で頭や体を洗いながらたまに


そのふたりを横目で見ていた。


今から35年ほど前、今は亡きおじいちゃんと銭湯に来ていた頃の


自分とダブって見えたからだ。


明治生まれのおじいちゃんは厳格な人物だったが、孫の僕にはいつも


優しい笑顔で見守るように接してくれて、可愛がってくれた記憶しかない。


亡くなった人が生きかえることはない。でも僕の心の中のおじいちゃんは


たくさんの思い出といっしょに僕の記憶という形で今でもちゃんと生きている。


そんな想いにふけっていると、いつの間にかお客さんが増えおり


僕は急いで着替えて外に出た。外はすっかり暗くなっていた。


帰りは湯冷めしないようにバスを使うことにしバス停でベンチに


腰かけて何気なく空を見上げるとそこにはお月様に薄雲がかかっていて


お月様の光が虹色に優しく輝き僕のことを見守ってくれているような


感じに見えた。


まるで記憶の中の、いつも優しかったおじいちゃんの笑顔のように。




一斗