中絶をした後、二週間ほど過ぎた頃、民生の部屋に行きました。
民生から電話があり
「夜食買ってきて」
と言われたのです。

部屋に入ると、いつも通り寝転がってテレビを見ていました。
カップ麺にお湯を入れて渡すと、黙々も食べていました。
ふと手元を見ると、最後に入れる旨味油的な袋が落ちています。

「これ、入れてないの?」
と聞いたら
「忘れた」
と言うので
「美味しくなかった?」
と顔を覗き込むと
「美味しかった…」
となぜか悔しそうに言うので、思わず笑ってしまいました。

重苦しかった空気が少し軽くなりましたが、民生と笑ったのはこれが最後でした。

妊娠を黙っていた事を謝りました。
民生はしばらく何も言わず、ため息をついてから
「一人で決めるな。俺にも責任取らせろ」
と言いました。

文字にするとプロポーズのような言葉ですが、甘い言葉ではありませんでした。
本当に相談していたらこの言葉を言ってくれたのだろうかと、疑いが浮かんでしまいました。

きっと民生にも伝わったのでしょう。
民生と私は会う機会が減っていきました。
連絡をしても断られることが続き、電話に出てくれないこともありました。
明らかに部屋に誰かがいる気配の時もありました。

この時から15年後、民生の責任の取り方を私は知ることになりますが、この時は後悔と疑いが募るばかりで、自分の好きな人を自分で傷つけた事を忘れ、責める思いが募りました。

そして、深夜に民生の部屋の前を何度も通る、プチストーカーになっていきました。