熊谷の母の実家は典型的な文化住宅、朝日新聞の記者だった祖父の書斎兼応接間はソファがあり、祖父のいないときでも祖母が座ってお客の対応をしていた。男性の客は小学校時代の友達だとか、当時小学生の自分は、(今の友達の縁が70歳近くになっても続くのか)と感心したものです。その多くが、お金の用立てだったのか。マスコミとはいえ子ども7人+専業主婦の生活が超裕福とは思えないが、祖母は困っている人を見るとほっておけない性格だったと、親戚一同口をそろえる。

 

さて、そのうちの1人の女性が返済代わりに持ってきたというマーキースカットのアレキサンドライトの指輪。高価な宝石であることを知らない祖母は「なんだかはっきりしない色の石だねー」と酷評しつつ、はめて出かけて、帰ってきたら指輪の台座は残って石が抜けていた=つまり失くしてきた、そうです。

「ルパン三世」あたりだと、差し出した女がわざと石を緩く留めておきどこかで落とさせ、取り返した…というオチになりそうですが。最近その話を聞いて、祖母らしいと思いました。そして聞いたのが大人になってからで良かった、小学生のときに聞いたら、イトコたちで捜索隊を作り、祖父母の家の周囲を大捜索していたに違いない。

借金の返済になるような宝石はどこにいってしまったのでしょうね?

 

*ご参考。マーキースってこういうかたち(レモン型というか。ナベットともいう)。つけてみるとわかるが、この尖った上端がわりとひっかかり、大事なバッグを傷つけるので要注意(ともにアール・デコ時代のリング)

 

女性どうしで昔話をすると、亡くなった先代も含め、“高価な、貴重な失くしもの”の話が後を絶たない。そのわりに拾得した方の話は表に出てこず、これも当事者が亡くなり誰かが引き継いでから鑑定団などに出てきて「戦前どこそこの寺からなくなったものだ」なとどわかり、ストーリーが完結する…こともあるでしょう。

近年のニュースに、ECサイトで入手したエルメスの手帳カバーがピカソの愛人のもので、住所録に交友先のメモが残っていた、なんて話もありました。(古いポストカードなどは、絵がきれいなら使用済みでもアンティークマーケットで売られています。その筆跡や文面も価値がある)

https://bijutsutecho.com/magazine/insight/22028

古ポストカード。1912年7月15日に出したことはわかった。裏の文面は、どんな著名人のやりとりでも私にはわかりません

 

お宝探しは、値踏みだけでなく、当時の“いきさつ”がわかったり想像できたり、あるいは予測不能なのが面白いのかもしれません。

成城でどんなお宝が出てくるか、こうご期待。