“私”の一番端には壁があって、それがぐるりを囲んでいる。
“壁”は自分の目線よりも高くて外を見ることはできないし、登って外へ出るにはあまりに高いが、といって無限に高いわけではない。
私の手は“ボール”を握っていて、そのボールを投げて“相手”とコミュニケーションをとることができる。


自分ひとりのとき。私は壁に向かってボールを投げる。(何せ、外に投げてもボールが返ってこないんじゃ、仕方ないからだ。)
ボールは壁に当たって、跳ね返ってくる。自分の投げる強さと、角度次第で、さながら力学の答案のように、予想通りに戻ってくる。


他人が向こう側にいるとき。壁の向こうにボールを投げると、相手が投げ返してくれることがある。或いは、投げ返してくれる人がいる。
他人に向かって投げたボールは、相手の都合で返ってくるから、強く投げてもふわっと返されるかも知れないし、呼応して強く投げ返してくれるかも知れない。
自分の手の位置にしっかり返ってくるときもあるし、明後日の方向に飛んでいったボールを自分で拾いに行かなくてはならないときもある。


ただ、外側に出て行ったボールが帰ってくるのは面白い。


他人に投げたボールは、自分を囲う壁の外側に出て戻ってくる。自分の内側に(ちょっとだけ)外側を持ち込んでくれる。
そうして、私の内側は広がっていく。
自分の壁のすぐ近くに、汚いものや美しいものがあったことを知る。そしてそれが最初から自分自身であったことを知り、そうした美しいものは自分の外側で誰かが面倒を見てくれていたものだと知る。
少し遠くなった壁に投げるボールは、ちょっとだけ違う軌道で跳ね返ってくるようになる。

すぐに慣れてしまうけれど。


こうして私は成長していく。