G1となった安田記念、マイルチャンピオンシップ、裏街道といわれた短距離路線にスポットライトが当てられた。


『マイル王』への野望。


無残だった皐月賞、最下位20着。

ニホンピロウイナーは『マイル王』として甦った。


1984年マイルチャンピオンシップ初代王座、1985年安田記念制覇。

毎日王冠1800m、4着。天皇賞秋2000m、3着。

2000mの距離でシンボリルドルフにも食い下がれた。充実のいま。


1600mなら、負けられない。



母ソシアルトウショウはオークス2着、その半弟は『天馬』トウショウボーイ。

全姉エイティトウショウは重賞4勝。期待された良血トウショウペガサス。

朝日杯3歳S2着。早くに素質開花させたが、ダービー8着、菊花賞19着。

4歳時は勝てず、5歳は故障で1戦しかできず、条件馬から出直した6歳。天皇賞秋を5着、ダービー卿チャレンジТで重賞初制覇。7歳になって中山記念を制し、また一頓挫。

復活めざした秋は、鞍上に手綱を取り続けた中島啓之はいなかった。


奇しくも、3歳下の半弟トウショウサミットのダービーを最後の騎乗に中島は逝った。


中島のいないスワンSを10着と敗れた。迎えるマイルチャンピオンシップ。

天国の中島が怒っている。『おまえは、そんな馬じゃない!』


いつも優しかった中島。そんなおまえが、怒ってくれた。オレのために。



牝馬東京タイムズ杯で古馬をなで切ったウエスタンファイブ、スワンS5着ドウカンテスコ・・・6頭が登場してきた4歳馬。クラシックよりマイルG1に活路を求めた。



最下級条件から破竹の5連勝、スワンSを制したコーリンオー。スワンS2着エーコーフレンチ。いまの勢いをぶつける。



『生まれてくるはずのなかった一族』、テンポイントの甥、ワカテンザンの半弟ワカオライデン。



彷徨える『天才少女』ダスゲニー。桜花賞・オークス両トライアル1着。桜花賞10着、オークス23着。

失ったもの大きさ。

走り続けるダスゲニー。23戦未勝利、天皇賞秋12着、有馬記念8着・・・精一杯走った。

勝てないまでも安田記念2着。あと一歩、あと一歩、輝きかけた夢の欠片。


走ることを、諦めない。




11月17日、マイルチャンピオンシップ。

1.ドウカンテスコ
2.トウショウペガサス
3.ニホンピロウイナー
4.ダスゲニー
5.コーリンオー
6.シルバーオーガス
7.イズミスター
8.エーコーフレンチ
9.リウジンフジ
10.ダイゼンシルバー
11.マルヨプラード
12.アイノスピード
13.ローラーキング
14.ウエスタンファイブ
15.オサイチボーイ
16.ワカオライデン


1番人気ニホンピロウイナー、2番人気ウエスタンファイブ、3番人気コーリンオー。

4番人気トウショウペガサス、5番人気エーコーフレンチ。



マルヨプラードが速かった。11番枠から一気に先頭へ。

その外からアイノスピード、内から1番枠ドウカンテスコが追った。


7番手、余裕の好位置につけたニホンピロウイナー。

その内に付けたのが、田原成貴に乗り替わったトウショウペガサス。


コーリンオー、ワカオライデン、ウエスタンファイブが後ろでマークした。

後方にダスゲニー、ローラーキング、エーコーフレンチ。


京都・淀のマイルG1。

ニホンピロウイナーの存在が激流を消して、あっという間に4コーナーを迎えた。



じんわりと5番手まで上がってきて直線を迎えたニホンピロウイナー。

直線に向くと、速かった。


鞍上・河内洋がゴーサインを出すなり先頭、他馬を突き放した。


これがマイルの王者。


一気につけた3馬身、4馬身の差。



懸命に内で粘るドウカンテスコ。

満を持して内から外に出し伸びてきたトウショウペガサス。

田原のムチが唸った。応えるトウショウペガサス。


天国の中島よ、見てくれ!


ドウカンテスコに並びかけた。



馬群を割って、伸びてきたのはエーコーフレンチ。



熾烈な2着争いとなった。



『マイル王』ニホンピロウイナーは、3馬身差、完璧な勝利のゴールを駆け抜けた。



1着ニホンピロウイナー

2着トウショウペガサス

3着エーコーフレンチ

4着ドウカンテスコ

5着ウエスタンファイブ




ニホンピロウイナーはマイルチャンピオンシップの圧勝を最後に引退となった。


重賞10勝、内マイルG1・3勝。通算26戦16勝。マイル以下18戦14勝、2着3回。

ひと昔前なら裏街道の王者。


グレード制導入、輝く『マイル王』となったニホンピロウイナーにとって種牡馬の道も明るかった。


種牡馬として5億円のシンジケートが組まれ、年間60頭の種付け制限をされ、競走馬のスピード化の流れの中で、貴重な種牡馬として扱われた。

ヤマニンゼファー、ニホンピロプリンス、フラワーパークなど多くの活躍馬を出し、堂々たる種牡馬生活を送ることとなる。


スピード優先、時代の中で脚光を浴び始めた短距離馬。


初代マイル王、それがニホンピロウイナーだ!



(つづく)