真夜中のドライブ

テーマ:
富士山以来すっかりブヨブヨになった脳みそを携えた僕と猿は
「人生」というやみくもなテーマを居酒屋で追求することで
すっかり酔っぱらってしまっていた。
ビールを飲み続けたあげく、隣の席の女の子達に僕らは話しかけ続けた。
一人は大人しいOLといった雰囲気で、
もう一人の方は背が低く華奢な感じだが、なんというか力強かった。
ありきたりな話題と計画的な泥酔。
背が低い方の子はハルといって僕より5歳年上だった。
僕は学生で彼女は社会人で、僕は二十歳で彼女は二十五歳だった。
少しばかりうち解けた僕らは次の日ドライブをすることになった。

夜。

夜は何か魔力を持っている。
朝が来るとやっぱりそういう力は消え失せてしまう気がするから
夜をいつまでも引きのばしていたいと僕は思う。
現実に戻りたくないと思うからなのか
ただ単に夜が好きなのか。
夜は年を重ねてもスイートな秘密を口いっぱい含んでいて
魅力的であり続ける。

ドライブ。

僕には自動車の免許がない。
免許に興味がなければ僕は車にすら興味がない。
男のくせにと思ったりするが仕方がない。
まるで興味が沸かないのだ。
それでもドライブは素敵だ。
それも年上の女性が運転する車でドライブ。

19:00

親には今夜は友達の家に泊まると言って、
待ち合わせをした場所に向かった。
ホンダに乗った小さな彼女はさらに大人に見えた。
スピードを上げカーブを曲がり1号線を西へ。
海を脇に長い橋を越える。
話を途絶えさせないよう僕は喋る。
知っていることから知らないことまで。
途中激しい雨が降った。
雨の中、大人の女と子供な俺。
なんだか夢を見ているようだった。

20:30

彼女はFMにあわせてヒット曲を口ずさんでいる。
僕は口笛を吹いている。もちろん甘い期待を胸に秘めて。
甘い妄想とどしゃぶりの現実の中
彼女の提案で僕らは彼女の「お気に入りのお好み焼き屋」に向かった。
お好み焼き。
甘い妄想とお好み焼き。
ソースに満ちた甘い夜。

21:00

満員。
彼女の「激しくお気に入りのお好み焼き屋」は
週末だったため非常に混んでいた。
仕方なく別の店を探すため車を東へ走らせた。

23:00

パスタ屋へ移動。

女の子はパスタをよく食べる。
なんでそうなのかわからないが「スパゲッティ」と言おうとしない。

トマトのパスタとサラダを食べた。
フォークにスパゲッティがうまく絡まない。
フォークに絡まったスパゲッティは巻けば巻くだけ大きくなる。

上手くパスタが食べられない。
ピアノが上手く弾けない。
ダンスがうまく踊れない。

ドライブが加速しない。

なんだか、そうやって味気ないサラダのように
その夜は更けていった。

24:00

彼女はまるで小さい子供を見送るように
家の前までご丁寧に送ってくれた。

夏を置き去りにして
彼女は去っていった。
僕は車のライトが見えなくなるまで見ていた。
次の日からまたCDを売らなければいけない。
新幹線に乗って京都に帰るんだ。
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大きな脂肪と小さな富士山

テーマ:
早朝の新宿西口。
排気ガスとアンモニアの匂いが暑さのなかで行き場を失ってたちこめていた。
コインロッカーが並び、道が交差しどこが地上か見失ってしまう。
地下を交差し、何人もの人とすれ違う。
早朝にも関わらず果てしなく
暑い。

東京。

暑さは
人を
おかしくさせる。

照り返す日射しに頭の脂肪はすっかり融解し
思考は完全に機能を失いつつある。
コンクリートの中で肉のかたまりがうごめいている、
そんな気分だった。

東京に慣れていない人間だからか、幾分張りつめた気持ちでいる。
幾つか階段をのぼり、地下道を歩き、
段ボールを幾つか横切った。
僕は空が見えてからほっとした。

西口のカメラ屋の前には観光バスが並んでいて
僕らはその1台に乗り込む。
生まれて初めての野外フェスティバルを体験しに行くために
僕らは集まり
その夜にミラクルとエクスペリエンスを求め、
機能を失ったブヨブヨをなんとか働かせ
それらのバスで首都高から目的地『富士山』へむかったのだった。

会場に着いた僕らはビールを飲み、タイだとかインドネシアだとかの
それっぽいスープやらカレーとかを食べ歩き
そういう国々のアクセサリーを物色したり、お香にむせたり
テントを渡り歩いたり、踊ったり、観察したりしながら
スペシャルなミッドナイトを待った。

しかし、ガイドブックの一冊ももたないままの
Tシャツ姿の我々を待ち受けていたのは
ジミヘンの火遊びや、おっぱい丸出しのギャルたちや
ヘラクレスの武勇伝や、ラブ アンド ピースや
ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイヤモンズや
ウッドストックのような泥んこ遊びの代わりに

なんと、空から女の子が振ってきた!

なんてことはなく
大きな富士山にあったものといえば、
しょぼくれた遊園地と、それを覆う白い霧と
底知れぬ
真夏の冷気だった。

霧に包まれた我々は全ての荷物を確認した。
僕らはそれぞれTシャツを2枚、タオルを1枚、フェイスタオルを1枚
靴下を1枚、あとはデイパックだけを持っていた。
僕らはTシャツを2枚重ね着し、
ありったけの段ボールを身にまとったのだった。

野望は野望であり続けた。

段ボールの外では細野晴臣にあわせて揺れる人々がいて
悲しくも僕らはそれぞれ段ボールの中でその音に吐き気がするほど
酔いしれることになった。

もちろん下山したらこの武勇伝を下界の人々に伝えるのだ。
そう決めていた。

僕らは何番めかのタフガキになれてただろうか?

がらくた帝国の出現

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1996年10月
がらくた帝国はその都市計画の第一歩を歩み始めた。
わずかな服と家具、少し音の良いオーディオセット。
そして音楽。
それらは僕の部屋で帝国の城壁を築いていった。
レディオヘッドのHigh&Dryが心地よく響き、
秋の西日がその南向きの窓を貫いていた。
ダンボールたちは何かたくらんでいるかのように沈黙を守り、
白い壁達は僕の様子を伺っている。

呼吸し、目を閉じてみる。
予感がしている。
鳴らなかった音が聴こえはじめる。

ぼくはこの日から
転がり始める。
全てはここから始まった。
僕はこの部屋を出ていく。
あの日と同じように
深く呼吸をして
目を閉じてみる。

そして、僕はまだ転がっている。

今夜のBGM
Rolling Stones: Like a Rolling Stone