インキュベーター社長日記 | インターウォーズ株式会社 吉井信隆のブログ -4ページ目

第280回 「共感とCSV経営の両立」

8月4日の日経産業新聞へ寄稿した記事を紹介させていただきます。

デジタルクリエイター集団であるメンバーズは、社員との共感を大切にし、社会課題の解決を両立させる想いを持つ創業経営者の剣持さんのもと、社員と企業が共に成長する曲線を描くことができる理想の会社の姿といえる。

世界一のDX運用サービスを目指し、社会課題を解決するCSV経営への挑戦するメンバーズに今後も注目していきたい。

 

「共感とCSV経営の両立」

 

コロナ禍の中、364名の新卒社員がメンバーズに入社した。

メンバーズはウィンドウズ95が登場したインターネット社会幕開けの年に誕生した会社だ。このころスタートしたベンチャーの多くが変革できず姿を消したがメンバーズはリーマン・ショックによる経営危機も乗り越え、Webサイトの運用に事業を集中することで、2017年に東証1部上場を果たした。

現在、グループ全体で約1,800人を擁するデジタルクリエイター集団だ。マーケティングを「人の心を動かすもの」と捉え、IT(情報技術)で企業と人々のエンゲージメントを高め、デジタルトランスフォーメーション(DX)支援事業でデジタル社会を先導している。

 

 

創業者の剣持さんとはスタートして間もない頃に出会った。「社員と共に会社を運営し、社員と共に栄える会社にしたいのでメンバーズという社名にした」という想いに共感し、出資や経営幹部の紹介を始め、社外取締役も務めさせていただいた。

剣持さんは独自の世界観と人間味溢れる感性で「社員との共感による企業成長」と「社会課題の解決」を両立させる思考を持つ創業者だ。

 

 

 

「共感の経営」のひとつとして、メンバーズにはmembersway協議会という活動がある。様々な部署から有志の代表者が集まり、待遇や職場環境に限らず、サービス改善や経営の在り方など、経営ボードに対して様々な起案をする。全社にライブ中継される中、両者が一同に会し起案の方向性を議論する。これまで「社用スマートフォンの導入」や「公認バカンス制度」など多くの施策がこの協議会から生まれた。

 

日本企業の多くが米国の経営に過剰対応した結果、独自性を失い日本的経営の本質を喪失しつつある。社員と経営ボードが「共感する経営」で働きたいと思える職場を自分たちの手で作り、社員と企業が共に成長する曲線を描けることが理想の会社の姿だ。

コロナ禍でリモートワークが広がり、社内コミュニケーションの難しさを感じている企業も多いなか、会社のパーパスを社員と共に実践するメンバーズの姿は、日本企業が何を取り戻すべきかを示唆している。メンバーズはVISION2030に「気候変動や少子高齢化に伴う医療費問題、地方衰退による財政破綻問題の社会課題」に重点的に取り組み、事業と両立させ解決に貢献すると定めた。

 

顧客に対して、メンバーズの社員たちが自らの意思と考えでCSV(共通価値の創造)アプローチを用いて、事業利益の追求とカーボンニュートラルの実現をはじめとする社会課題を解決する経営への転換を促していくという。

メンバーズが世界一のDX運用サービスを目指し、事業と融合し社会課題を解決するCSV経営への挑戦がスタートした。

第279回 「サーキュラーエコノミー」

6月25日の日経産業新聞へ寄稿した記事を紹介させていただきます。

様々なシェアリングサービスが普及し、「富山県朝日町での新しい公共交通サービス」の実証実験を始め、

「シェアリングエコノミー」の市場規模が拡大している。サーキュラーエコノミー(循環型経済)先進国のオランダ・アムステルダムでは、このシェアリングが子供の幸福度1位の要因となっているのかもしれない。

日本でも、やりながら学んでいくことでニューノーマルが見えてくるのではないだろうか。

 

「サーキュラーエコノミー」

 

「モノを買わなくなった」と、よく聞くようになった。必要なものがいつでもやすく使える「シェアリングサービス」が普及し、車・家電・洋服・音楽・宿泊・住宅など、様々なサービスを利用する人が増えている。

 

2020年8月、富山県朝日町で「地域住民の移動をサポートする新しい公共交通サービス」の実証実験として「ノッカルあさひまち」がスタートした。コロナ禍でバス会社の撤退が相次ぐ中、この実証実験に注目が集まっている。

「ノッカルあさひまち」はご近所さんの自家用車でのお出かけついでに「乗っかる」ことができる送迎サービスだ。

 

 

 

高齢者の多い地域の移動課題解決のため、朝日町役場、地元タクシー会社の黒東自動車商会、スズキ株式会社、株式会社博報堂が連携し、新たな交通網をつくる試みだ。一般ドライバーの自家用車を活用し、地元の交通会社と連携した「自治体が運営する助け合いの公共交通」は車両費と人件費抑えたローコストモデルだ。

その時々のライフスタイルにあった、必要なものを必要なときだけ利用する「シェアリングエコノミー」は技術革新によって市場規模が拡大しており、2020年には過去最高の2兆円を超えた。

 

シェアリングで先行するアムステルダムの知人から「2020年にユニセフが発表した子供の幸福度ランキングでオランダが1位になった」と聞いた。

欧州委員会ではリーマン・ショックを契機に「資源の効率化」を成長戦略に組み込み、地域のコミュニティに根ざしたサーキュラーエコノミー(持続可能な社会を実現するための経済の革新的な産業モデル)を目指している。

 

 

「所有」から「共有」へと生活スタイルが変わった「スマートシティ・アムステルダム」。モノやサービスの価値やカタチが変わり、消費行動が変化し家族で過ごす時間が増えたことから、子供に良い影響を与えているのかもしれない。

 

江戸時代の庶民は集合住宅の「長屋」に住み、井戸やトイレ、ゴミ捨て場などを共有して暮らしていた。土鍋や皿や鉢などの食器の貸し借りや、食材や料理のお裾分けといった日常生活の光景が広がっていた。

 

長屋の住民たちは生活必需品のシェアだけでなく、子供が生まれると地域のみんなで世話をして育児を支え、江戸時代の子供たちは、のびのびと育ったと言われている。

 

 

 

 

日本でシェアリングエコノミーが広がっている背景には、おそらく江戸時代のこういった支え合いの文化や生活スタイルが日本人の根幹にあるからだろう。

日本のサーキュラーエコノミーの姿は「江戸時代の文化と生活」と「デジタルトランスフォーメーション(DX)」を融合させ、「やりながら、学び、改善する」ことから、ニューノーマルが見えてくる。

第278回 「経営の本質は変わらない」

5月21日の日経産業新聞へ寄稿した記事を紹介させていただきます。

ドレッシングでお馴染みの「ピエトロ」は美味しさを追求する創業者の魂を伝承し、創業40周年を迎えた。

豊洲にオープンしたレストランの新業態はコロナ禍にあっても、多くの人で賑わっており底力を感じた。ピエトロは創業者の魂を伝承しながらも進化を続けている。

 

「経営の本質は変わらない」

 

コロナ禍で企業の地力が浮き彫りになった。

多くの企業が苦戦する中で、外食のピエトロの底力を見た。昨年5月、ららぽーと豊洲でレストランの新業態「PASTA & TAPAS PIETORO」がオープンした。

創業時からの明太子を活かしたパスタを始めとするメニューは変わらず、サラダが食べ放題で、好みのピエトロドレッシングを自由に選べる。

 

ドレッシングを前面に推したレストランはこれまでにない店舗だ。

サラダ食べ放題で「健康とおいしさ」を組み合わせることで、コロナ禍にあっても子供連れや若い女性で賑わっており、独自戦略の真価が発揮された形だ。

 

 

 

 

コロナ禍での受動的な対応では競争優位の真実の姿はわからない。

同じ環境下の同じ業界内でも企業間の業績は明暗が分かれた。ピエトロはレストラン運営とドレッシングを製造販売しているが、ドレッシング販売のきっかけはレストランのお客様の声だった。

創業時、パスタが茹で上がるまでの時間に出したサラダのドレッシングがおいしいと評判になり、「このドレッシングをかけると野菜嫌いの子供がサラダをきれいに平らげてくれる」と、お客様からの希望でドレッシングを販売するようになった。

以来、ピエトロのドレッシングで子供たちの野菜嫌いを直し、「健康を考える」ことがテーマとなった。レストランでのドレッシングの売れ筋をマーケティングに活用し、ドレッシングメーカーとしての経営に役立てている。

 

ピエトロの商品開発の起点は論理的な市場分析からのアプローチではなく、お客様から「おいしい」といってもらいたいという創業者の執念だ。「おいしさの追求に経営資源を集中させた」ことで独自の商品が生まれた。

ビジネスは変化の連続だが、どんな環境変化が訪れようとも、競争力の本質は変わらない。本質とは「そう簡単には変わらないもの」だ。

 

ピエトロの創業者である村田邦彦さんとは生前親しくさせていただいており、何度かこんな話を聞いた。「“おいしい”の一言がピエトロのすべて。何度も言われたい。お客様を感動させきらないと、ブランドというものはできない」

創業者の村田さんの魂が練り上げた「おいしさの追求に磨きをかけていく戦略」は今も変わらない。そして、本質を守りながらも常に進化し続けるスピリッツも変わっていない。

 

戦略の本来の力は競合他社との違いを創ることにある。創業者のこだわりや思想が、唯一無二のレストランとドレッシングのハイブリット型ビジネスモデルとなった。

 

昨年、ピエトロは創業40周年を迎えた。一軒のレストランから上場企業にまで押し上げた起業家の魂が二代目社長の高橋泰行さんに伝承され、ピエトロ物語の挑戦は続いている。

第276回 「バイオマスプラに新潮流」

3月3日の日経産業新聞へ寄稿した記事を紹介させていただきます!
2020年7月1日、全国の郵便局でレジ袋が変わりました。お米を配合した新素材のバイオマスプラスチックレジ袋です。世界は今、SDGsの提言とともに、世界規模で環境問題に焦点が当てられています。今回、このテーマに真正面から取り組む、再生可能資源を有効活用する革新企業バイオマスレジン南魚沼のことを寄稿しました。環境省は国際バイオマスプラスチックの年間出荷目標を、2030年までに現状の50倍に当たる約200万トンに拡大すると発表しました。我々の生活に、ようやく地球に優しいバイオマス関連の商品が増えてくる社会になって来ました。

 

「バイオマスプラに新潮流」

 

2020年7月1日、全国の郵便局でレジ袋が変わった。非食用の米を原料としたバイオマスプラスチックを30%配合したレジ袋だ。バイオマスプラスチックとは、トウモロコシやサトウキビなどのでんぷんや、食品廃棄物を原料とする新素材。

持続可能な社会に貢献する切り札として注目されており、ごみ焼却などで排出される二酸化炭素(CO₂)の削減が見込まれている。

 

この革新的なレジ袋を開発した会社は、全国有数の米どころである新潟県魚沼市にある。国産米のプラスチック樹脂製造をうたうバイオマスレジン南魚沼だ。

原材料は国内の食品製造業から出るフードロスや災害米、日本酒の醸造課程で削られる米粉、古米など。主力製品は米を70%配合した「ライスレジン」で、石油由来の樹脂と比べコストや形成性、強度などほぼ同等レベル。既存製品に対しても競争力があり、サーキュラー・エコノミー(循環型経済)の一端を担おうとしている。

 

20年9月、3.11の風量被害に遭った福島県浪江町の休耕地を活用し、資源米から作るバイオマスプラスチックの生産拠点を設立した。地元農家の繁忙期と収穫時期を変えた試みで事業効率を高めている。さらに北海道、熊本、高知といったコメの産地で、スマート農業によるバイオマスプラスチック資源米の生産に着手している。バイオマスプラスチックはバンダイグループなど大手玩具メーカーの知育玩具や文具、家庭用品、レジ袋、食品トレーなどの様々な製品に加工され、次々と市場を掘り起こしている。

 

 

創業者の神谷雄仁さんは、15年近くひとつの研究開発に取り組んできた起業家だ。多くの波に翻弄された粒々辛苦の道のりで、「何度も心が折れそうになり、もう駄目だと思った。」と振り返る。研究開発分野で新たな事業を立ち上げる起業家には、既存の価値観でジャッジする「障壁」が立ちはだかる。特に、これまでにない概念の開発テーマは、許容範囲が狭いので断念することが多い。

神谷さんに事業を諦めなかった理由をたずねると、「農家のおじいちゃんや町工場のおじさんから認められたことで活路が見出せ、社会の役に立てると思った」とのことだった。

 

 

社会起業家の顔を併せ持つ神谷さんの志に共感し、当社も投資など積極的に支援している。

バイオマスレジンは環境、地域、フードロス、農業といった社会課題を包含しながら、ビジネスとサステナビリティを両立。成長を続けている。環境省は国際バイオマスプラスチックの年間出荷目標を、2030年までに現状の50倍に当たる約200万トンに拡大すると発表した。

この潮流のなか、全国で米生産1位の新潟県魚沼市のスタートアップの挑戦が、新たな産業創成の歴史を刻んでいる。
 

第275回 「社内起業家の壁取っ払う」

1月25日の日経産業新聞へ寄稿した記事を紹介させていただきます!

コロナで一変した企業価値により、企業では新規事業を立ち上げるイントレプレナー(社内起業家)が求められるが、様々な壁が立ちはだかってしまう。垣根のないデジタル社会のなかでこの壁を取っ払うことが新規事業創出につながると考えています。

 

「社内起業家の壁取っ払う」

 

企業価値が新型コロナ禍で一変した。新常態に適応できない企業は資金確保に走り、減産やコストカットに迫られた。だが、こうした受動的な対応ではアフターコロナに未来はない。「新規事業に挑戦したいが、事業を立ち上げる人材が社内にいなくて困っている」。昨年来、イントレプレナー(社内起業家)不在の相談を受けるようになった。

 

 

そうした企業には共通点がある。ボードメンバーに新事業立ち上げの経験者がいないので、取締役会で新事業となるとどうも後ろ向きになるのだ。経営のトップマネジメントチームは勘どころが判らず、リスクヘッジの尺度で成否を測り、新規事業の提案を見送ることが多い。

起業マインド旺盛な人材は、嫌気がさして社外に出て挑戦する。意欲のある人材を「塩漬け」にして、機会を与えないから人が育たないのである。

 

 

2018年に日本のスタートアップに投資された資金総額は4000憶円を超える。増加傾向にあるが、米国の14兆円規模と比べ少なくGDP比では先進国の中で最小だ。「世界で一番起業しにくい国」といわれている日本のスタートアップエコシステムの環境は、相変わらず独立起業家にはハードルが高くリスクが大きすぎる。

 

 

20年10月30日、財務省が「2019年の日本企業の内部留保が475兆円となり過去最高を記録した」と発表があった。企業にいながら起業できるイントレプレナーにとって、内部留保をはじめとする経営資源がたっぷりとあることの意味は大きい。

一方で、イントレプレナーには既存事業の「壁」がそびえたつ。これを乗り越えなければ成功しない。イントレプレナーは既存事業と新規事業とのビジネスの価値観のせめぎ合いに悩まされる。既存事業の成長を求める経営のトップマネジメントチームの思考回路や判断基準はそう簡単に変わらない。

 

 

かつて私が在籍したリクルートではインターネットが登場した早い段階から、検索ポータルサイトを立ち上げる議論があった。しかし、ポータルサイトの立ち上げは、リクルートの情報誌事業を危うくするという既存事業の壁により、開発に至らなかった。その後、1998年にグーグルが誕生した。

 

人間や社会を変えるイノベーティブなビジネスは、誰かが必ず立ち上げる。本業が食われるのではないかと躊躇している時間などない。大手企業の多くは、既存事業との整合や相乗効果を経営の意思決定のストラクチャーにしてきた。垣根のないデジタル社会では、どれだけ柔軟に新事業をアジャイル(素早く)開発できるかが鍵となる。

経営のトップマネジメント層がベンチャーキャピタルの構えでイントレプレナーを冷静に見つめ、投資支援をすることが健全な事業の新陳代謝につながる。