第283回 「日本の起業エコシステム」
11月29日の日経産業新聞へ寄稿した記事を紹介させていただきます。
「日本の起業エコシステム」
昨年、米国のスタートアップの資金調達額が17兆円を超えた。
一方、日本のスタートアップの調達額は4500憶円、起業率は5%と世界最低水準だ。
ユニコーンを呼ばれる企業数は日本は6社、米国は378社と、他の先進国と比べて極めて少ない。
GAFAと日本株全体の時価総額が逆転したという報道があった。
世界経済における日本の国内総生産(GDP)のシェアは、1995年の17.6%をピークに昨年は5.8%となり、日本のプレゼンスが低下している。
日本経済の活力を取り戻すには次世代を担う起業家が次々と生まれる土壌や仕組みが必要だ。フランスでは、VCの大型資金提供を始め、インキュベーションセンターや制度の整備など、官民一体で起業立国を目指した成果が出ている。
日本は企業の資金余剰が続き、保有現預金が43兆円を超え、
1980年以降で最大の伸びを示している。
財務省の発表によると、日本企業の内部留保は2020年に480兆円を超え、9年連続過去最高となった。
日本の経営者が保守的な経営スタンスをやめ、ノンリスク病から脱却しなければ成長は望めない。日本が生産性を高め、持続的な成長を遂げるには、豊富な資金を新しい成長分野に振り分け、その収益力を高めていくことだ。
日本の取るべき道筋は2つある。
一つ目は、大企業の経営者が内部留保をイントレプレナー(社内起業家)に大胆に投資することだ。
スタートアップと同様の起業機会と環境を与え分離独立させれば、社員が起業家に変貌する。起動に乗せる秘訣はイントレプレナーが求める最高執行責任者(COO)やテクノロジー関連のビジネスモデルならエース級のCIO人材を送り込むことだ。
イントレプレナーが育つ土壌を創り、長期的な投資家の構えを取ることが経営者のあるべき姿だ。
二つ目は、VCとの座組で有望なスタートアップへの大型投資と、有能な経営推進人材を投入するハンズオン型のインキュベーションで取り組むことだ。その後、ケースによってはスタートアップをM&Aで取り込み、経営チームを強固な体制にしてスケールさせていく。
リクルート社indeedのM&Aでトップを送り込んで海外進出し、グローバルカンパニーに変貌することで時価総額10兆円超の企業に成長した。日本の多くの企業は欧米企業と異なり豊富な内部留保がある。海外の有望な企業を買収することで、海外市場を開拓するチャンスのときだ。
日本の起業立国実現の道は、他国から学んでも、真似る必要はない。豊富な内部留保を持つ日本企業が、多様な形で大胆に投資を拡大し、グローバルカンパニーを目指していくことが、日本の起業エコシステムを確立させることにつながる。