推理小説を紹介します。

灰色の脳細胞を駆使してサイコロジーの
観点と細やかな観察で事件を解決する
探偵エルキュール•ポワロが挑みます。

画家である夫を殺害し、死刑となった妻。
しかし、それは16年も前の事件でした。
刑が執行されてから長い歳月が流れた。
当時、幼くて事件の直後に海を渡り、
親戚に預けられた娘がポワロの前に現れる。

彼女は母からの手紙を持っていた。
『殺していない』と書かれた最後の手紙。
母の無実を、そして真犯人を捜してほしい。
娘はポワロの高名を聞いて訪れたのです。


名探偵にとっても、16年前に起きた
殺人事件の解明は極めて異例なこと。
現場検証も出来ません。遺体もない。
どうすればよいのか。

ポワロは事件の日に現場にいた五人の
人物から、個々に話を聞く。
そして、それぞれの手記を基に真相に
迫っていく。

屋敷の主である画家のアミアスが
亡くなった。側にはビールのグラスと
瓶が転がっていた。
ビールを運んだのは妻だった。

ひとつの事件、でも五人の視点からは
別々の景色と人間模様が見えていた。

その手記と当時のことを聞きながら、
矛盾点と、隠れた人間関係を
ジワジワとあぶり出していくポワロ。

例えば、死刑になった妻のカロリンは
美しく魅力的だ。だが、時に激しく
アミアスと口論をする。怒りを封じ
ることなく、言葉に出す女性だ。

五人のひとり、妻の妹アンジェラは
片目が不自由だ。それは姉のカロリンが
少女の頃、妹に怒りを蓄積した挙句に、
ある日カッと頭に血が上り、妹めがけて
文鎮を投げつけたのだ。失明するほどに。

この事実だけでも、カロリンは激しく
攻撃的な人間と伝わる。

だが、アンジェラも犯人は妻ではないと
信じていた。カロリンは妹を傷つけて
しまったことを悔い続けていた。
そして、自分の激しい気性を知るゆえに
溜め込まないように用心していた。
怒りがコントロール不能になる前に
相手に向き合い、時には喧嘩をする。
そんな姉が、自分を傷つけたことを
ずっと後悔している姉が、愛する夫を
殺害などしない。
あり得ないとアンジェラは言うのだ。

それぞれの手記から、見えてくるもの。
犯人はカロリンなのか。
それとも違う人物だったのか。
証言を照らし合わせて、浮かび上がる
事実を紡いでいく。

誰かを愛し、誰かを憎む。
穏やかな夏の光の下で交錯する心。
人間は、見る方向によってはプリズムの
ように様々な色を放つのだろうか。
私が見ている世界は、他の人には
違う景色なのかもしれない。

ラストは切なくて、そして愛することの
強さと悲しさに呆然としました。

いつも推理小説は騙されないわよ〜と、
身構えて読み進むのですが、
これまた、いつものように
えっ‼️と驚愕し、そして納得しました。

トリックが冴えた小説も好きですが
アガサ•クリスティはトリックに留まらず
人間を深く観察して描いていると感じます。

五匹の子豚、マザーグースの陽気な
童謡をタイトルにした快作です。

そして、この事件と同じく
私がこの小説を読んだのも16年前でした。
当時のことを、あまりにも
覚えていないことに愕然としました。
当時、手記を書こうと思ったことは
覚えていました。三日坊主でしたがニヤニヤ