日本で最近公開されたばかりのLa La Land(ラ・ラ・ランド)。賞云々は報道されている通りなので、ここでは感想のみを書きます。監督はWhiplash(セッション)のDamien Chazelle(デミアン・チャゼル)です。
多少ネタばれ含むのでご注意ください。
Lalaland(ララランド)とは理想の世界、またはあちら側、「とんじゃってんじゃないの?」なんて時に使う言葉でもあります。この映画はそんなあちら側の世界に行くことを求め続け、努力をし続けるミア(エマ・ストーン)とセブ(ライアン・ゴズリング)の二人の物語。その瞬間の自分の感覚全てに忠実でありたい、そしてその感覚を表現したい。そうすることであちら側に行きたい。そんな生き方を続ける二人ですが、安定した生活に惹かれそうになったり、全てを諦めそうになったり。実際に、「そこまですることないし、興味のないことでも、しっかり稼げるならそれは立派なこと。それでいいじゃない」、なんて言葉をよく聞きますよね。それでも悩みながら、もがき苦しみながら、二人はあちら側を求めつづけます。
自分から落ちてゆくなんて・・・傍から見れば、気が狂ったように見えるかもしれない、それでも落ちつづける。それが彼女がオーディションで決意したこと、そしてその瞬間の彼女の感覚そのものでもありました。彼のジャズもそうなのかもしれません、自分の思う旋律で、好きな音色で、その瞬間の自分の感覚を表現していく。全てを正直に、その時、その選択肢は無限に広がっている。その瞬間、瞬間が次から次へと積み重なって、ああ、あの時ああしていれば、こんな世界が広がっていたかもしれない、なんて後悔する時もあるけれど、それこそが自分の選んだもので、だって人生ってそういうものでしょう。そんな力強い訴えを感じました。
台詞が複雑で凝っているだとか、卓越した演技合戦があるだとか、そういうのがある映画ではないです。個人的にこの映画の最も素晴らしい所は、その内容がミュージカルの形式に絶妙にかみ合っているところだと思います。普通の台詞ならば、それぞれが頭の中で思っていること、感情、感覚、それら全ては人の内側にあるものです。けれど歌なら、それを全て表に出すことも出来ます。物語の中で二人が必死に外に向かって表現しようとしていた、本来は見えないはずの彼ら自身の内側が、歌となって観客に見えるようになる。ミュージカルの面白い所はそこなんですよね。
例えばですが今作のオープニング。圧巻のパフォーマンスでしたが、もちろん物語的には彼らは歌ったという事実はなくて、車から出たという事実もない。あれはあの街では多くの人が、そういった希望を持ちながら生活をしている、というだけです。かと思えば他の曲では明らかに実際に会話をしている設定だったり。物語の中の世界では、歌の内容を彼らは実際どこまで言葉として発したのか、その境界線は曖昧なもの。ミュージカルってそういう風に人の思考や感覚そのものが、入り混じった世界でもあると思うのです。それがなんとなく二人の目指していた世界とも重なって、不思議な感覚に陥るのです。
正直に言いますと、個人的に主演の二人の演技は元々苦手だったのですが、それでもこの映画だけはこの二人しかありえない、と感じました。当たり前ですが歌もダンスもプロのように上手いわけではないし、周りからは浮いている。でもそれでもいいんじゃないかと思います。だってこれはミュージカル物を作ろうぜ!という映画ではないから。
この内容を描きたいから、それを表現するならならミュージカルしかありえない。だから飽くまでそれは手法であって、歌って踊り狂うような作品ではありません。ミュージカルを見たぞ、という満足感はほとんどないけれど、でもそこには間違いなくミュージカルの良さがあって、その辺のバランスがなんとなく心地よい映画でもありました。