カメさんの宇宙日記

ガンマ対ベータ

放射線の種類の記事のつづきです。前回の記事で一口に放射線と言っても、
ヨウ素１３１からはベータ線
セシウム１３７からはガンマ線
と、種類がいろいろあるお話をしました。
ではガンマ線とベータ線、、、どのような違いがあるのでしょうか？

今回は性質の違いを視覚的に表現するためにGeant4を利用してみました。
Geant4は放射線をシミュレーションするための定番ソフトウェアで、誰でもしかも無料で利用することができます。利用者も私のような宇宙の研究者から放射線医学の研究者までさまざまです。

まずはこのツールを使って人体モデルを作ってみます。１０分で作ったものなので哀愁の漂ったモデル君となってしまいましたが、元素組成と密度は実際の人間に近い設定になっています。下の図は、このモデル君から２メートルという至近距離に放射性物質があると仮定して、そこからガンマ線が発せられた場合（左）と、ベータ線が発せられた場合（右）をシミュレーションしたものです。ガンマ線が緑、ベータ線が赤をそれぞれ表しています。

ご覧のように、ガンマ線はモデル君までバシバシ飛んできますが、ベータ線は空気に阻まれてモデル君まで到達できないことがわかります。つまりヨウ素１３１からのベータ線は１メートル以上離れればほとんど影響がないようです。一方のセシウム１３７からのガンマ線は、確かにモデル君まで届いているので注意が必要です。
ただ一応注釈ですが、今回モデル君まで到達したガンマ線は身体を貫通してしまっているので、やはりモデル君には影響を及ぼしませんでした。よく誤解されている方がいますが、ガンマ線などの放射線が身体を貫通したということは、身体に何も影響を及ぼさなかったという事と同義になります。逆に、放射線が身体の中で停止したということは、放射線のエネルギーが身体の中に伝わったことを意味していて注意しないといけません、、、と言っても放射線が身体を貫通するのか、途中で止まってしまうのかは確率現象なので、注意のしようはありませんが。。

では次に、放射線が身体の内部から発せられた場合をシミュレーションしてみます。いわゆる内部被曝です。下の図は先ほどと同様にモデル君の体内に放射性物質があると仮定して、ガンマ線が発せられた場合（左）と、ベータ線が発せられた場合（右）をシミュレーションした結果を表しています。

ガンマ線の場合、身体中から大量にガンマ線が外に向けて出ているのがわかります。つまりこれが意味しているのは、ガンマ線の多くが身体に害を与えず、そのまま外に飛び出したということです。但し、今回は身体の中で阻止されたガンマ線が多少いたので影響がまったく無かった訳ではありません。でも図右のベータ線との違いは歴然です。ベータ線の場合、ほとんどすべてが身体の中に止まってしまっています。同じ条件であればDNAが放射線によって損傷する確率は、明らかにベータ線の方が上な事がわかります。
またベータ線熱傷という火傷に近い症状の被曝は、ベータ線を出す放射性物質が皮膚に付着し、ベータ線が集中して皮膚の浅い部分で停止することによっておこります。

以上をまとめると、ベータ線はある程度距離を離れたらその影響を回避出来るが、一度体内に取り込んだり皮膚に付着すると被害は大きいです。一方、ガンマ線は、かなり遠方からでもその影響を受ける可能性があり、さらに身体の内部奥深くにまで届き影響を与えることがあります。但し同じ条件であれば、ガンマ線が身体に影響を与える確率はベータ線よりも低くなります。

なお補足です。ヨウ素１３１からはベータ線が出ていると書きましたが、実際にはエネルギーは低いですがガンマ線も同程度出ていますのでご注意下さい。

カメ