実を言いますと、これから始める作業は、「嶋、埼」地名群などで、湿地を表現する際の「u, e, o」母音の使用法に、一定の法則がありそうな感じがしたので、地名のランキングを作って分析すれば、なにか浮かび上がるだろうとの思いから、始めたものです。
ところが、到達点は予想外の場所でした。まさに『倭語→日本語の源点』、という地点でビックリしました。地名が言語の一環で、言葉と一体化している様子を実感したものです。
ここでも、当時と同じ手法で、同じ経過をたどってみましょう。
まず、「嶋地名、埼地名」の母音音型ランキングを作ります。(地名は、その代表例)
嶋地名の音型ランキング
音 型 頻 度 地名用例
aa 527 中 島 ae 57 前 島 iu 27 水 島
oo 191 大 島 ui 53 牛 島 uo 24 黒 島
a 170 田 島 ai 52 上 島 aao 24 高野島
o 132 小 島 io 51 下 島 aua 23 桂 島
‥‥ 129 志 摩 ie 39 姫 島 aio 21 上ノ島
uu 99 鶴 島 ua 39 桑 島 ea 20 江田島
au 86 松 島 oi 37 荻 島 aai 20 境 島
ia 84 北 島 ao 36 青 島 e 18 江 島
ii 79 飯 島 u 35 津 島 oa 17 岡 島
i 73 三 島 aaa 29 高田島 uai 16 兎 島
小計 1570(59.3%) 428(16.2%) 210(7.9%)
地名数 2648 合計 2208(83.4%)
埼地名の音型ランキング
音 型 頻 度 地名用例
aa 570 山 崎 uo 44 黒 崎 aaa 30 川原崎
ia 212 岩 崎 oa 44 岡 崎 ii 27 石 崎
o 181 尾 崎 u 43 須 崎 ea 23 寺 崎
au 135 松 崎 oi 42 森 崎 uu 21 鶴 崎
i 96 木 崎 ai 39 柿 崎 iu 18 水 崎
oo 93 大 崎 ae 37 竹 崎 iaa 18 宮ヶ崎
ui 67 杉 崎 aia 37 柏 崎 ie 17 嶺 崎
io 56 塩 崎 aua 33 松ヶ崎 ou 16 惣 崎
a 54 矢 崎 aai 32 林 崎 ao 15 箱 崎
ua 49 塚 崎 e 30 根 崎 iia 15 石ヶ崎
小計 1513(64.1%) 381(16.1%) 200(8.5%)
地名数 2361 合計 2094(88.7%)
「嶋、埼」地名の音型ベスト30の表は、両地名群の 8割以上が30形式の母音音型をとる様子を表現しています、これらの音型をさらに集約すると、二音節の地名は「黒島、黒崎」を典型とする「uo」型、埼地名の30位に入る「ou」型をのぞくと、次の 6形式、24種類のパターンに絞り込めます。
① 単音型 a i u e o
② ax型 aa ai au ae ao
③ ix型 ia ii iu ie io
④ xa型 aa ia ua ea oa
⑤ xi型 ai ii ui ei oi
⑥ xx型 aa ii uu ee oo
㊟ 「aa,ii」型は三度重複し、「ai,ia」型も二回重複する。
音型ランキングに現われたように、嶋・埼地名の母音音型は 5母音が均等に使われずに、「a,i,o,u,e」の順に使用量が大きく片寄っています。これが『倭語の基本特性』といえるようで、比較的簡単に集計できる例として、嶋(ia)・埼(ai)地名の語頭に使われた母音を分類すると、次のようになります。
嶋地名:「a母音:43.1%。i母音:23.7%。u母音:13.0%。e母音:3.3%。
o母音:17.9%」
崎地名;「a母音:44.1%。i母音:22.1%。u母音:11.4%。e母音:3.5%。
o母音:19.0%」
一つひとつの地名では個性を発揮する「嶋、埼」地名も、語頭にたてた母音の使用比率はおなじ傾向をみせています。これは両地名群全体の様相をも表現し、24種類の母音音型は、「ei」が双方共に30位以下に位置するほかは、全数がベスト30に入り、これ以外の音型では、両者の「uo」、埼地名の「ou」が30位以内にランクされています。
そのために、「aia,aai,aua」などの3音の言葉が上位に位置するわけで、嶋地名の31位以下には「aaaa,ooaa,auai」など、4音の地名が姿をみせるのも興味を惹きます。
2音節の言葉は「a,i,u,e,o」の 5母音を二つ重ねた音型の5×5=25パターンのうち、「嶋、埼」地名に多用されたのは、例外的な「uo」を入れると、次の20種類であったことがわかります。
嶋・埼地名の多用音型
aa ai au ae ao
ia ii iu ie io
ua ui uu ue uo
ea ei eu ee eo
oa oi ou oe oo
先に便宜的に「単音型」に区分した埼・嶋地名も、次位に「sima ,saki」と「a,i」母音が続くので、この範疇に含まれるところは大切です。この図を眺めていると、5母音を二つ組み合わせた25種の音型の中で、20種類(80%)が重用されていて、全体ではたいした問題はないようにみえます。ところが「3音、4音」の言葉になると、様相が一変します。
本来、3音の言葉は5×5×5=125種類、4音の言葉は5×5×5×5=625種の母音の組合せをとりうるものです。だが「嶋、埼」地名において、5例以上の使用がある3・4音の音型は埼地名で22種、嶋地名での29種類のうち、この20パターンの定形に入らないのは,両者に共用された「iue」と,埼地名の「oua」だけなのです。
こうした少数の例外をのぞくと、「嶋、埼」地名群のベスト30にのった三音節の名称は「aaa,aai,aao,aia,aio,aua,iaa,iai,uui」のように、「a,i」母音を基調においた 2音節基本パターンの『重ね合わせ』によって、地名をつけた様相が浮かびあがるのです。
aa+aa→aaa aa+ai→aai aa+ao→aao
ai+ia→aia ai+io→aio au+ua→aua
ia+aa→iaa ia+ai→iai uu+ui→uui
地名の創作に、2音節の基本パターンを重ね合わせる方法は、地名解釈で提起した、崖ことば・欠け言葉→『掛け言葉』の存在を暗示するのです。さらに、この基本形は『逆さ言葉』を含んでいるところも見逃せません。