一年前のあの熱気はどこへ行ってしまったのか。その頃のベトナムサッカー界の雰囲気をこんな風に書いたこともあったのだが、最近のベトナムサッカー界は迷走している。

 今月、ハノイ・ミーディンスタジアムで行われたロシア・ワールドカップアジア二次予選で、ホーム2連戦を戦ったベトナム代表。8日、強豪イラクとの対戦では後半アディショナルタイムまで1-0でリードし、「番狂わせか!?」と湧いたところで、ハンドによりPKを与えるという不運なドロー。そして13日、宿敵(とベトナム側は思っている)タイとの対戦では0-3と完敗。最終予選への道はほぼ絶たれたと言っていい。

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2016年は盛り上がるベトナムサッカー界とすることができるか!?

 もっとも、この結果が迷走を引き起こしたわけではない。この試合よりも前から、代表監督の三浦俊也氏に対し、「三浦退陣!」との声が叫ばれ始めていたのだ。大きな声を上げ始めたのはドゥック氏。こちらの記事でも紹介したように、昨年までU-19旋風を巻き起こしたHAGLの金持ちオーナーが「三浦監督は辞めるべき」と公言し始めたことで、代表のサッカーに不満を持つサッカー世論は勢いづいた。ワールドカップ予選での振るわない結果は、この声を更に大きくしてしまったのだ。

 ドゥック氏は手塩にかけて育てたU-19選手たちの代表招集、起用方法に関して三浦監督と意見を違えていたという見方もあり、監督批判はその辺りにも遠因があるかもしれない。ただ、ベトナムサッカー(オーナー)界の大御所かつ圧倒的人気を誇るU-19育成の立役者の発言は大きく、サッカーファンの間でもその去就を巡る議論が激しくなった。

 三浦監督自身は「ベトナムの選手は諦めが早すぎる」「ベトナムがタイに追いつくのは時間がかかる」という趣旨の発言を率直にし、ネット上のコメントなどでは「ごもっとも」という冷静な意見も多いが、反発する意見も多く、とにかくコメント数が増えている。更にはファイスブックで勝手に三浦監督を名乗る偽アカウントが、ご丁寧にも英語で「辞任発言」をして、それをなんとも軽率にもメディアが伝え、VFF(ベトナムサッカー連盟)が否定に追われる辞任デマ騒ぎになるという混乱ぶり

 もっとも落ち着いた論評もある。「三浦監督に感謝」という皮肉っぽいタイトルの本日15日TuoiTre記事論評では「ベトナムサッカー全体の問題が代表につながっている。VFFはタイサッカー連盟に遥かに劣っている、国内リーグはタイプレミアリーグのように盛り上がっていない、審判だって重要な試合には海外から招聘しなければいけない状態。こんな状態でタイに勝てる方が真理に反している、そういう状態を見せてくれた三浦監督に感謝」という意味だ。タイトルはともかく、代表だけ、代表監督だけ責めてもしょうがない点は全くそのとおりだ。ネット上の激しいコメントよりも、ベトナムの一般サッカーサポーターはこういった見方をしているように私も感じる。

 ネットニュースに付くコメントを良く見てみると、Likeを集めるコメントが多いのは「三浦辞めろ!」よりも、「大体VFFは今まで責任とったことあんのか!」というコメントに見える。13日のタイ戦完敗後にVFF幹部が「三浦監督が責任を取るべき」とした発言を紹介した記事には、山のように「じゃあ、お前の責任は何なんだ?」というコメントが。混迷の底辺にあるVFF不信の根深さを感じさせる。

 今年のベトナムサッカー界を振り返れば、期待されたU-19出身選手を多く抱えるHAGLにもシーズン後半には残留争いに巻き込まれ、「疑惑の試合」まで出てくる後味の悪い形で国内リーグ戦は終了。盛り上がる国内リーグを期待していたベトナムサッカーファンは、怒りの矛先を探してしまうのかもしれない。悪いことが重なってしまった感じだ。
 
 2016年1月、日本も参加するリオ五輪予選を兼ねたU-23アジア選手権でどんでん返しの大躍進を見せられるか、或いはJ2水戸ホーリーホック入りが噂されるベトナムのメッシCong Phuongが日本で大活躍するか?いずれにせ2015年のモヤモヤを吹き飛ばすような、ベトナムサッカー界の2016年に、ちょっと早いが今から期待をしたい。