引き続く南シナ海領土問題を発端としてベトナムと中国の緊張状態。その対立構造の中で、日本はベトナムから「何だかすげーベトナムを助けてくれるっぽい!」という感じに捉えられています。先日シンガポールで行われたアジア安全保障会議で、安倍首相がASEANへの更なる支援を約束した(っぽい)演説が出ると、ベトナムでも大きく取り上げられました。自分も職場のエレベーターでベトナム人同僚に「Thank you!」とか言われて何のことやらわかりませんでしたが、どうやらその支援表明にありがとうとのこと。

 何だか早合点だなあと思っていると、「日本が巡視船を供与してくれるらしい」って話も妙にサクサク進んでいるようにベトナムでの報道が先行し、ベトナム国防省グエン・チ・ビン副大臣が「来年初にも日本が巡視船供与してくれるってぇ~」と発言したのは一昨日の6月1日。

 「調査だってやらなきゃいけないし、大体建造するにだって何年もかかるんだよ、そんな早くできるわけないでしょ!」と日本が反論して、そうかあなんてベトナム側が思い出したと思ったら、「日本が汚職疑惑で対越円借款新規案件を一部停止」を発表!それも国防副大臣発言の翌日、昨日2日のことでした。

 この対ベトナム新規円借款一時停止のニュースですが、実は2008年にも当時の日本コンサルタント会社が絡んだリベート事件で既に前科あり。その時はベトナム国内も大騒ぎだったのですが、今回はベトナム国内メディア反応が、このブログ執筆段階でほぼゼロ。というか、多くの記事は「2日に反汚職に関する日越会議開催し、双方善処しようと合意」として双方が話し合った旨を述べるのみで、一時停止の事実を伝えていません。伝えているのはBBCなど海外の越語メディアか、ThoiBaoKinhTeSaiGonが共同通信を引用する形で一時停止を伝えているくらいです(いずれもこのブログを書いている時点で)。「日本はベトナムの事件処理を高く評価!」なんてトンチンカンなタイトルのメディアまであります。

 というのも、当事者であるベトナム交通運輸省のプレスリリースにも、上記会議のことは伝えつつ、そのODA一時停止が書いていないのだからそれもそのはず。南シナ海問題で中国と対立し、日本の支援をガチっと求めている今、ベトナム政府の内輪で起きた汚職事件によるこの顛末は、日越団結には超冷や水、余りに格好が悪いとのベトナム政府の判断でしょう。主要なメディアでは報道が「自重」されています。

 巡視船供与の議論は恐らく無償資金協力が想定されていて、今回ベトナムでリベート疑惑が起きた挙句に一時停止となったのは円借款(有償資金協力)なので、テクニカルに言えば「直に停止対象」というわけではないのですが、数日の間に日本のODAを巡って「何だかなあ~」というやり取り。そもそもベトナム自らの官僚汚職から出た身から出た錆、メディアの報道規制している場合じゃありません。中国に対抗云々も良いけど、そのためにも「あんたら自身ももっとちゃんとせなあかんよ」というベトナム(政府高官)へのメッセージになることを祈らずにはいられません。