先月上旬、ベトナムにU-19日本代表も訪れて行われたNutifoodカップは、ホーチミン市で非常に盛り上がりを見せました。その理由は(まあ日本の南野とかもかなり取り上げられてはいましたが)なんといっても地元期待の星、ベトナムサッカーの「黄金世代」と言われるベトナムのU-19代表です。同チームは先の大会でオーストラリア相手に5-1で大勝するなど、これまでボロクソに言われているベトナム代表の中で「将来の期待の星」とされています。しかし、「U-19は誰のものか」、という日本では聞かない代表チームの「所有権争い」が今後の成長に一つの波乱要因となっています。

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熱心に試合を見つめるDoanNguyenDuc氏(VietnamNetより)

 そのチームをここまでに育てた最大の功労者と言われるのが、ベトナムサッカー連盟(VFF)、ではなくてベトナムHoangAnhGiaLaiグループの会長であるDoanNguyenDuc氏。彼は成功した実業家で、ベトナム有数の大金持ちです。昨年末段階の株式長者番付ではベトナムで第2位の約3.5億ドル株式資産を誇りますし、その他資産を合わせれば幾ら持っていることやら・・・。その金持ちぶりもベトナムでは結構なもんですが、彼のサッカーへの熱の入れようは更にスゴく、彼の会社の本社かつ会社所在地でもあるGiaLai省Pleiku市には2007年にHAGL-Arsenalサッカーアカデミーという施設を作り、イギリスのArsenalと提携して選手育成にあたっています。ベトナム中から将来性のある若手を集め、学校も作りながら寄宿舎制で、全ての時間をサッカーに費やすことができる環境を作っています。学費、生活費などもほとんど見てもらえるということで、数多くの応募者があるそうですが、ベトナム人コーチを選手選抜に全く干渉させず、外国人コーチなどの意見で選抜するという(ベトナムで超ありがちな金・コネ合格を避ける)厳格ぶり。その成果が出始めた世代が現在注目の「U-19」なのです。実際ベトナムU-19代表メンバー22人中17人が同アカデミー出身ということで、これではDuc氏が「オレのもの」的になるのも無理はありません。

 昨年12月にかけてミャンマーで行われたSEAGames、東南アジアのオリンピックのようなスポーツ大会で、オリンピックなどでは苦戦のベトナムでは「オレたちもメダルが取れる」と結構盛り上がる大会です。注目はやはりサッカーで、U-23チームが出場したのですが、ここに「Duc氏の(とメディアも呼ぶ)U-19メンバーが入るか」ということが話題になりました。当初彼の答えは「No!」彼はVFFの選手管理に全くの不信感を抱いており、選手を預けたくないということになったのです。最終的には選手を出すこと自体には同意したものの、選手の管理は完全にはVFFには任せないという方針。結果的にU-19メンバーの参加はほぼ無しで戦ったベトナムは、期待を大きく裏切り予選リーグで敗退。これでU-19世代への期待は更に高まり、Duc氏への注目度も高まります。

 ベトナムのサッカーファンには、ある種の先見の明を見せて先行投資をし、今の黄金世代をここまでに育てた彼の手腕に賛同する人が多いです。ただその一方、この「代表チームはオレのもの」ぶりがどこまで許されるかには賛否両論も。先日のNutifoodカップで同代表は3試合を戦い、U-19トッテナムやU-19ローマには善戦したのですが、最終ローマ戦でPKを許すファールを犯したソンラム・ゲアンのDF、VanKhanh選手を「罰として」これから実施する海外遠征・キャンプに連れて行かないという決定が有りました。これには「若い選手相手にそんな根拠で遠征可否を決めるとはヒドイ」「やっぱり彼はアカデミー出身じゃないから差別したのでは?」と疑問が上がっています(以下の「U-19は誰のものか?」というベトナム紙記事参照)。

 これからベトナムU-19代表はヨーロッパで7週間、そしてワールドカップによるJリーグ中断期間には日本でも一ヶ月ほどキャンプを張るそうです。その費用の100億ドン(約5000万円)は完全にDuc氏が出すとのこと。相変わらずの太っ腹、「オレのもの」ぶりです。この日本キャンプも、先日のNutifoodカップ中に彼と日本代表監督が話して即決したとの話も。これでは本当にベトナムサッカー連盟が主導するという体裁がありません。今後Vリーグの各クラブに出て行くであろう若いベトナムの期待の星たちを巡って、Duc氏とVFFの対立はどう展開していくのでしょうか。

 ただそれはともかく、日本代表には大敗してしまいましたが、未来のベトナムサッカーを担う世代ではあるのは確実なU-19、将来が楽しみなサッカーを見せていました。日本に来た際にはJチームとの練習試合なども企画されるでしょうから、その時には皆さんも生で観戦されたら如何でしょうか?