今週はとにかく頭を離れることのない温州列車事故の話題。メディア関係者、特に中国大陸のメディア関係者は眠れぬ日々を過ごしていることかと思います。そんな中、事故から7日目を迎えた今日7月30日は、中国メディアに対して「事故関連記事は控えるべし」という禁令が出たと、新浪微博(マイクロブログ)などネット上で情報が駆け巡りました(そして、その情報自体も削除されました)。実際に多くの新聞はかなり抑制的な記事となっています。

 そんな中、この日の新聞市場はどうなっているのだろうと、午前10時頃新聞を買いに行くと、新聞スタンドは早くも各種朝刊をお片づけ。早いなあと思っていると、残っていた今日発売の「経済観察報」。その一面、特集は共に激しく目を引きました。骨太の特集でまだ読み切れていませんが、自分の印象に残った記事をここで紹介します。ここには、「中国メディア」といっしょくたにできない、民間系メディアの官製メディアに対する怒り、そして今回の事故報道に関する正義感が激しく伝わってくるメッセージがありました。タイトルは「做有良知的媒体」(良識あるメディアたれ)です。(以下ポイントのみ抄訳)
(追記:リンク先の原文は30日深夜時点で既に削除されたことが確認されました。ネット上では転載されていますので、例えばとりあえずこちらをご参考に。ただこれもまた削除される可能性はありますが…。)

$北京で考えたこと-jingjiguanchabao禁令の出た今日にこの「鉄道部解体」というタイトルと激しい見出し、記者の怒りと意気込みを感じます。


 23日の列車事故後は全国のあらゆるメディアが声を挙げた。あの人民日報を代表とする中央政府官製メディアでさえ「起きるべきでない事件がなぜ起きたか?」と詰問し、中央電視台さえも追跡報道を行った。そんな中、それでも一部の官製メディア、例えば「環球時報」や「公益時報」(鉄道部の機関報である「人民鉄道報」は論外だが)は信じられないような論調を掲げ、これら新聞の関係者はメディア人として基本的な良識と節操、そして亡くなった40人の命に対する最低限の敬意を持っているのかすら疑われる。

 環球時報が25日に発表した「高速鉄道は中国が経験すべき自己鍛錬」と題した論評では、「鉄道部は事故後すぐに上海鉄路局局長らを解雇するなど正確な一歩を踏み出している、今回事故の結論が高速鉄道の速度を落として昔の鈍行電車にもどることであってはならない」としている。鉄道部を追求すべきでなく、高速鉄道という新しい技術に対する疑念を持つ社会にその責任を求めるべきと言うのか?事故後すぐに責任者を交替したのは単にスケープゴートを作っただけで、事故処理現場は更に混乱したのではないか?乗客は実験用ラットになってまで「鍛錬」をして高速列車を走らせなければいけないのか?

 同日、25日に出された公益時報「温州列車事故から見る中国社会主義の優越性」(リンクは天涯論壇にされた転載文)と題し、黒を白と言う奇々怪々な文章を出している。事故後まだ救出作業をしている時に社会主義の優越性を訴えるなどバカげたスーパー楽観主義でないか?資本主義体制の日本では47年間(訳注:ママ)大きな新幹線の事故が起きていないと言うのに、何が「中国社会主義の優越性」だ!

 我々メディア人がすべきことは「嘘を言わない」ことである。完全な真相を書くことはできない時があるかもしれない、ただ少なくともメディアに嘘を言わないことを求めることはできるはずである。汚れのない白い紙の上に、自らの良心が欠けることがあってはならない。(以上抄訳)

【考えたこと】
 禁令下でのこの日の経済観察報による大特集。新浪微博でも「良くやった!」と称賛の声が相次ぎます。こういった民間系メディアは、厳しい環境の中国大陸で常にぎりぎりの仕事を強いられています。その仕事振りに心から敬意を表すと同時に、今後この怒りがどうなっていくか、不条理な懲罰を食らわないかどうかを懸念します。

 そして、同時に日本語メディアの方に言いたいのは、中国メディアにも他の国と同様これだけの多様性があることを踏まえてから、中国メディアの声を引用して欲しいということです。特に環球時報などは日本関連の記事も多く、多くの日本メディアが「中国メディアによると…」など大雑把に解説して実は環境時報の記事を伝えたりします。それを日本の読者は「中国によると…、中国人によると…」と誤読しかねないリスクもあるわけです(というかそう読んでいるでしょう)。「どうせ、中国のメディアって統制されているかどれも一緒なんでしょ?」という誤解と共に。

 これらのメディアの多様性(若干の特徴と論調の傾向、組織背景)をきちんと注記することは多少の追記でも良いわけです。その僅かな努力は是非惜しまずに、よりリアルで多様な中国をきちんと伝えて欲しいと私は思いますし、今回紹介した記事を書いているような中国の多くのメディア人が真に願うところではないでしょうか。