中 九兵衛のブログ 大和川流域歳時記


 ● 1854年の「南海地震」と大阪を襲った「大津波」


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        < 瓦版「嘉永7年寅年11月5日申ノ下刻 大地震に附、大津波次第


 幕末の嘉永7年(1854年)の11月4日午前9時頃、駿河湾から紀伊半島沖を震源域とする、M8.4の「東海地震」が起き、大阪でも揺れが強く家屋の被害が出ました。

 その恐怖と大きな余震が続く中、僅か32時間後の11月5日の午後5時頃に、紀伊半島から四国沖を震源域とする同規模の「南海地震」が連続して起きたのです。


 前日の揺れ、この日の本震・余震で大阪市中は大騒動となり、連続地震で家屋倒壊の危険性が増したことから、川に浮かぶ船に難を逃れた市民も多くを数えました。

 そんな中、午後7時頃、6mの山のような大津波が発生、「安治川」・「木津川」の河口から遡った津波は、道頓堀や土佐堀のような繁華街の堀川にも侵入。大船・小舟が折り重なるように一気に流され、多くの橋が崩れ、船に避難した人々の多くが犠牲となりました。


その150年前、宝永4年(1707年)の「南海・東南海・東海地震」(M8.6)でも、同じような犠牲者が出ましたが、過去の歴史の伝承が人々から薄れ、同じ過ちを繰り返したのです。


 この嘉永7年の連続地震は、今、「安政東海地震」・「安政南海地震」と名付けられています。

 しかし、正確には、この年「安政」に改元されるのは、この約2週間後の11月27日です。

 何故、「嘉永東海地震」・「嘉永南海地震」と呼ばないのでしょう?



 ● 「大地震両川口津浪記」の石碑

      ( 大阪市浪速区幸町3-9 「大正橋」東詰北側 )


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 現在、1854年の「南海地震」による「安治川」・「木津川」を遡った大津波の被害の様子や、過去の教訓を生かしきれなかった人間の愚かさを戒める石碑が、「大正橋」の東詰・上流側に残されています。

 津浪の翌年、この碑が建立時は、まだ橋もなく、船の渡し場に建てられたと伝えられています。


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 御影石で出来た石碑は、高さ約2m・幅約40cm・奥行約35cmの大きさ。

 正面で犠牲者を弔い、左側面には碑の建立年月と施主名が記されています。

 そして、裏面から右側面にかけて、被害の様子を綴ると共に、過去の災害を忘れることなく、今後も起こりうる大津波などへの備えとして、大地震の時は、「船に乗るべからず」・「火の用心が肝要なり」などの教訓を刻んでいます。


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     < 正 面 >             < 左面・正面 >            < 左 面


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             < 右面・裏面 >                 < 右面(部分) >


 碑文の最後(部分写真最終行)に、「心あらん人、年々文字読み安きよう、墨を入れ給うべし」とあります。

 この、年に一回の墨入れは、「幸町」住民の手で建立当初から綿々と受け継がれているとのことです。


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   < 瓦版「大地震両川口津浪記」の釈文 >           < 現代語表記の「津浪記」


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 大正4(1915)年の初代「大正橋」架橋時に、東詰北側に移転。昭和49(1974)年の2代目「大正橋」架橋時に、現在地に移され、石碑の周りの玉垣が整備されたとのことです。


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    < 左の道路が、千日前通に架かる大正橋。その東詰北側から望む。


 同じ「南海地震」の際、堺でも津波に襲われた多くの船が、橋にぶつかり転覆しました。

 しかし、人々は宝永地震の教訓から、川へ逃げてはいけないことを知っていたと言います。

 「よそ(大阪)では、小舟に避難して死んだ人が数多くあったらしいが、里人は神社の広庭に集まったため、怪我人の一人もいなかった。強い地震の際は津波があると心得るべきである。」

 ・・・大阪とは対照的な、「大浜公園」に残る「南海地震」の記念碑です。


 大和川叢書④『流域歳時記・甚兵衛と大和川~この日何の日』の11月5日の頁は、東大阪市の「布施駅」北側の「宮ノ下遺跡」で発見された貝塚が、弥生時代の貝塚として畿内最古のものであることが、平成4(1992)年のこの日に発表された話題です。