彼女の映画を見た。

この歪な関係が更に歪なものへと変わるきっかけとなった、例のベッドシーンのある映画だ。


眼の前のスクリーンいっぱいに彼女が歓喜の涙を零しながら俺ではない男のキスを受け容れている。

やがて昂奮した男は彼女を押し倒し服を剥いでいく。

(完全に彼女に呑まれているな)

きっとこの時、この俳優は演技ではなかっただろう。
素で彼女に夢中なのが見て取れた。

——役の【結菜】ではなく、【京子】に触れようとしている。

役の上なら、画面の中だけならいい。
譲って恋心を抱く程度も寛容出来る。
彼女に魅力を感じるのも無理ない話だから。

だが、役に乗じて【京子】に触れようとするのは我慢ならない。

(潰してやろうか…)

穏やかではない考えが過った時、スクリーンに彼女だけがアップで映った。

役を離さず、【結菜】として恋人を求める彼女。
彼女自身の心は微塵もない。

それを感じると、男に対する敵愾心が少し収まった。



場面は【結菜】が恋人に抱かれる最中のシーンへと移る。

『あっ・・・ああっ』

恋人役の男の頭を抱えながら喘いで感じている声を出す彼女。

「———クッ」

喉の奥が鳴る。

自ずと口角が上がり笑みが浮かぶのを止められそうになかった。


彼女はあくまで女優だ。

彼女に夢中のあの男がどれだけ掛けられた毛布の下で彼女をその気にさせようと手を動かしたにしても、それに応えることはないだろう。

何故なら。

(あれは俺が教えた仕草だ)

カメラワークでいかに綺麗かつ本物のように見せられるか。

俺が教えた。

(知らないだろう?本当の彼女はそこでそんな反応はしない)

そして決定的な、男の頭を抱きしめる彼女の指の動き。

指に髪を絡ませている。

(違う)

彼女は頭を抱えた先の指で無意識に耳に触れてきて弄るのが癖だ。

それを俺は知っている。
どのタイミングで、彼女が触れてくるのかも。

シーンの節々に俺と彼女しか知らない秘密めいたものが在る。
映画に携わっていないはずの俺の気配が彼女から漂う。

これに悦ばない男はどうかしている。

(参ったな…)

予想以上の優越感。

俺のモノではない彼女が俺の思う通りに染まっていく。
彼女にある隙を俺の痕跡が埋めて、近寄る男に付け入らせない。

(けれど全て染めることはしない)

これからも、それは肝に銘ずる。


俺にとって幸せは何よりも罪深い。





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もっと際どい言葉を使いたかったですが(蓮はガンガン使う男です←)、それだけで別館なのもどうかと思い自重。

本誌を読んで思うですよ。
敦賀氏は闇を乗り越えたのだとしても、リックのことはまた別なのではなかろうかと。
もしかしたら闇を乗り越える=さあ幸せになるか、にはならないのではとか。

いや、これから本誌ではキョコたんへの猛攻が始まることを信じていますが、もし↑のような思いなら先は長いなと妄想し出来たのがこの話…
次の本誌が出る前に慌てて書き殴りUPです(・∀・)

第5回作戦は次回に持ち越し…(今回決行する隙もなかったッス)