冷蔵庫にあったもので簡単に朝食を作ってから寝室へ向かう。
私は今日オフだけれど、敦賀さんは確か午後からドラマの撮影だと言っていたはず。
時計を見るとちょうど7時半を過ぎたところで、起こした方がいいのか多忙な彼には少しでも長く睡眠をとってもらった方がいいのか躊躇う。
悩んだ末、本人に直接尋ねることにした。
扉を開けると、寝室はまだ昨夜の時間が濃密に残っていた。
凝った空気。
投げられたバスローブ。
乱されたシーツ。
そして、私に腕枕してくれた状態のまま眠る敦賀さんに一つ鼓動が速くなる。
せっかくバスルームで落ち着かせた熱がまた蘇りそうになるのを頭を振って散らそうとした。
「敦賀さん…」
眠っていても、伏せられた睫毛からでも色気が感じられるのは、ヒール兄妹を演った時に知っている。
ふらふらと半ばそれに当てられたかのように近付いた。
ヒール兄妹の時と違うのは、私が敦賀さんへのどうしようもない恋心を認めてしまったということだ。
私の伸びた髪が彼の顔にかからないように手で縛ってから、そっと唇を合わせる。
そして彼を起こそうと唇を離した、その時。
「きゃっ」
背中に回された敦賀さんの腕に引き寄せられ、彼の胸に倒れこんだ。
彼の耳元に顔が埋まる。
「つ、敦賀さん?」
返事はない。
代わりに聞こえてきたのは、規則正しい寝息。
(まだ寝てる…?)
そう分かると彼に抱きしめられ緊張した身体から力が抜けた。
(そう、よね。起きてたらこんなことしないわよね…)
恋人関係でもあるまいし。
なら早く彼を起こしてこの状況から脱却したいと思う一方、身体はもう少しこのままでと訴える。
鼻を擽る彼の匂いに胸が高鳴り、抱き締められる腕とともに安堵する。
(そんなこと知ってる…)
敦賀セラピーは元より、この腕の中にいればどんな不安も消えていく絶対的な信頼も。
私は知っている。
けれど縋りはしない。
「敦賀さん」
呼びかけて、もがいて、彼の覚醒を促す。
「ん…な、に…」
至近距離で耳に入ってしまった彼の掠れた声が妙にセクシーで腰が抜けそうになるけれど。
「…っ、あの、もうすぐ8時ですけど、今日何時入りかお聞きしてなかったから…」
「ああ…今日は確か…」
と、考える途中で本格的に眼が覚めたらしい敦賀さんは、私を抱きしめているという今の状態にようやく気付いたらしい。
はっとして慌てて腕を離す。
「ごめん、寝惚けていたみたいで」
「いえ…」
なんだか気まずくて、私はゆっくり身体を起こすことで間を持たそうとした。
次の言葉が出て来ず、言葉を探しているうちに、敦賀さんの方が先に口を開いた。
「身体、大丈夫?」
「は、はい。…ありがとうございました」
これは実技で教えてくれた御礼だ。
「…どういうものか分かった?」
「えっ、あ、ハイ…分かった…気がします」
「そう」
よかったと笑む敦賀さんに、もしかして今の答えは「もう十分学んだ」と捉えられただろうかと思い、慌てて付け加える。
「でもっ、あれが全部じゃないんですよね?」
「えっ?…まあ、そうだね。でもあれが一番オーソドックスだよ」
「後学のために他も教えて下さい」
まさか、そんなことを言ってくるとは思わなかったのだろう。
敦賀さんは大きく眼を見開いた。
「・・・・本気?」
「はい。その代わり私に出来ることなら何だってします」
「いや、それはいつも食事を作ってくれているからいいよ。それより、どういう意味か解って言ってるの?」
先輩後輩から抜け出す気のない私達が、演技の為に身体を重ね続ける。
愛しているけれど、愛を交わしたりすることはしない。
この矛盾は互いを苦しくさせるだけ・・・それでもいいのかと敦賀さんは確認しているのだ。
「はい。敦賀さんが赦して下さるのなら」
他の女の相手なんてする暇のないくらい貴方のプライベートの時間に居座りたいからなんてことは流石に言えないけれど。
お互い苦しむならそれでいいとさえ思う私の心は多分歪んでいるのだろう。
「…一つ知っておくといいよ」
彼の呆れた声が溜息と一緒に部屋に響く。
「女の誘いに断る男はいないってことをね…」
だからそんな顔を他でしてはダメだと、上半身を起こした敦賀さんの手が私の頬まで伸びる。
間を置かず近付いてくる美貌に、私は眼を閉じ唇を甘受した。
それが合図。
腰を攫われ身体が再びベッドに沈む。
眼を開ければ、自分の上に覆い被さる彼の濡れた黒曜の眸と絡む。
葛藤を抱える眸が徐々に情欲に揺れ動く様に、私の身体も疼き始める。
きっと私の瞳も彼と同じ揺らめきをしたのだろう。
ここからは余計な言葉はいらない。
ただ男と女が本能のままに原始的な行為に耽るだけで、そこに愛だとかの付随価値は私達には何の意味も成さないし求めたりもしない。
2つの身体があれば、それだけで。
—————
やはり道を間違えた感が否めません(爆)あーれー?
書き直すか悩む。
本当は2人が寝るのは今回だけのつもりだったんですけどね?
でもそうしたらいよいよくっつく機会がなくなりそうな気がして、これからもずるずるいっちゃえ!と変更。
しかしですよ。
次回、第5回恋人になろう作戦も惨敗のニオイがぷんすかします。
私は今日オフだけれど、敦賀さんは確か午後からドラマの撮影だと言っていたはず。
時計を見るとちょうど7時半を過ぎたところで、起こした方がいいのか多忙な彼には少しでも長く睡眠をとってもらった方がいいのか躊躇う。
悩んだ末、本人に直接尋ねることにした。
扉を開けると、寝室はまだ昨夜の時間が濃密に残っていた。
凝った空気。
投げられたバスローブ。
乱されたシーツ。
そして、私に腕枕してくれた状態のまま眠る敦賀さんに一つ鼓動が速くなる。
せっかくバスルームで落ち着かせた熱がまた蘇りそうになるのを頭を振って散らそうとした。
「敦賀さん…」
眠っていても、伏せられた睫毛からでも色気が感じられるのは、ヒール兄妹を演った時に知っている。
ふらふらと半ばそれに当てられたかのように近付いた。
ヒール兄妹の時と違うのは、私が敦賀さんへのどうしようもない恋心を認めてしまったということだ。
私の伸びた髪が彼の顔にかからないように手で縛ってから、そっと唇を合わせる。
そして彼を起こそうと唇を離した、その時。
「きゃっ」
背中に回された敦賀さんの腕に引き寄せられ、彼の胸に倒れこんだ。
彼の耳元に顔が埋まる。
「つ、敦賀さん?」
返事はない。
代わりに聞こえてきたのは、規則正しい寝息。
(まだ寝てる…?)
そう分かると彼に抱きしめられ緊張した身体から力が抜けた。
(そう、よね。起きてたらこんなことしないわよね…)
恋人関係でもあるまいし。
なら早く彼を起こしてこの状況から脱却したいと思う一方、身体はもう少しこのままでと訴える。
鼻を擽る彼の匂いに胸が高鳴り、抱き締められる腕とともに安堵する。
(そんなこと知ってる…)
敦賀セラピーは元より、この腕の中にいればどんな不安も消えていく絶対的な信頼も。
私は知っている。
けれど縋りはしない。
「敦賀さん」
呼びかけて、もがいて、彼の覚醒を促す。
「ん…な、に…」
至近距離で耳に入ってしまった彼の掠れた声が妙にセクシーで腰が抜けそうになるけれど。
「…っ、あの、もうすぐ8時ですけど、今日何時入りかお聞きしてなかったから…」
「ああ…今日は確か…」
と、考える途中で本格的に眼が覚めたらしい敦賀さんは、私を抱きしめているという今の状態にようやく気付いたらしい。
はっとして慌てて腕を離す。
「ごめん、寝惚けていたみたいで」
「いえ…」
なんだか気まずくて、私はゆっくり身体を起こすことで間を持たそうとした。
次の言葉が出て来ず、言葉を探しているうちに、敦賀さんの方が先に口を開いた。
「身体、大丈夫?」
「は、はい。…ありがとうございました」
これは実技で教えてくれた御礼だ。
「…どういうものか分かった?」
「えっ、あ、ハイ…分かった…気がします」
「そう」
よかったと笑む敦賀さんに、もしかして今の答えは「もう十分学んだ」と捉えられただろうかと思い、慌てて付け加える。
「でもっ、あれが全部じゃないんですよね?」
「えっ?…まあ、そうだね。でもあれが一番オーソドックスだよ」
「後学のために他も教えて下さい」
まさか、そんなことを言ってくるとは思わなかったのだろう。
敦賀さんは大きく眼を見開いた。
「・・・・本気?」
「はい。その代わり私に出来ることなら何だってします」
「いや、それはいつも食事を作ってくれているからいいよ。それより、どういう意味か解って言ってるの?」
先輩後輩から抜け出す気のない私達が、演技の為に身体を重ね続ける。
愛しているけれど、愛を交わしたりすることはしない。
この矛盾は互いを苦しくさせるだけ・・・それでもいいのかと敦賀さんは確認しているのだ。
「はい。敦賀さんが赦して下さるのなら」
他の女の相手なんてする暇のないくらい貴方のプライベートの時間に居座りたいからなんてことは流石に言えないけれど。
お互い苦しむならそれでいいとさえ思う私の心は多分歪んでいるのだろう。
「…一つ知っておくといいよ」
彼の呆れた声が溜息と一緒に部屋に響く。
「女の誘いに断る男はいないってことをね…」
だからそんな顔を他でしてはダメだと、上半身を起こした敦賀さんの手が私の頬まで伸びる。
間を置かず近付いてくる美貌に、私は眼を閉じ唇を甘受した。
それが合図。
腰を攫われ身体が再びベッドに沈む。
眼を開ければ、自分の上に覆い被さる彼の濡れた黒曜の眸と絡む。
葛藤を抱える眸が徐々に情欲に揺れ動く様に、私の身体も疼き始める。
きっと私の瞳も彼と同じ揺らめきをしたのだろう。
ここからは余計な言葉はいらない。
ただ男と女が本能のままに原始的な行為に耽るだけで、そこに愛だとかの付随価値は私達には何の意味も成さないし求めたりもしない。
2つの身体があれば、それだけで。
—————
やはり道を間違えた感が否めません(爆)あーれー?
書き直すか悩む。
本当は2人が寝るのは今回だけのつもりだったんですけどね?
でもそうしたらいよいよくっつく機会がなくなりそうな気がして、これからもずるずるいっちゃえ!と変更。
しかしですよ。
次回、第5回恋人になろう作戦も惨敗のニオイがぷんすかします。