ベッドの上で言葉を交わすのは恥ずかしかったから、隣で眠る敦賀さんを起こさないよう気を付けてベッドを抜け出しバスルームへ入った。

熱いシャワーを出しながら鏡に写る自分の躯を見つめる。

「どこも変わってない…」

当然と言われればそうなのだが、改めて自分の眼で確認し安堵した。

あの時の自分の躯が自分のモノではないような感覚は幻だったのだ。
今躯に残っている違和感はただあの人と躯を重ねたという事実だけ。

「大丈夫、私は私を保てている」

納得してボディタオルに手を伸ばしたとき、ふと視線が鏡の中の自分のとある箇所に留まった。

左の腰骨の窪みのあたり。

紅く色付く印。

「…っ!!」

これが何か私は知っている。
上半身は撮影で見えるかもしれないからこんなところに?
鏡越しではなくて視線を落とし直に確認する。

「ぁ……」

ただ一つだけ。
色濃く、私の躯に残る。

これをあの人がつけたのだと思うと、脳裏にフラッシュバックしてくる昨夜の熱。

あの人の熱い手と唇が私の躯に這って、低く艶のある声が私を脳髄を痺れさせた。

鮮明に蘇る感覚に、じわりと暴かれたソコがつられて潤む。

「やだ…」

まるで躯はあの人を思い出して求めているようだった。
それを理性は許さない。

「ダメよ、キョーコ」

恋人はいらない。
まして敦賀さんだけは手に入れてはいけないし願ってもならない。
たとえ気持ちは同じなのだとしても。

——自分を保てなくなる。


シャワーを頭から浴びて、一晩で見失いそうになった自分を必死に呼び戻す。

「大丈夫。こうなることは想定の範囲内だったじゃない…」

敦賀さんを好きだけれど、彼の特別になりたいわけじゃない。
彼と寝たのは演技のためだ。
演技のためなら、私は自分の心どころか尊敬する先輩ですら利用する。

ただもう一度と望んでしまうのは、まだ知らないことが多すぎるからだ。

でも彼には何のメリットもない。

「こんな貧相な躯じゃ嬉しくないだろうし…」

けれど行きずりの女よりは口が堅い自信はある。

私を性欲の捌け口にしてくれればいい。

ふとそんなことを思った。
それは敦賀さんに尽くすという愚行から思うのではない。

その役目を負うことで、彼のプライベートな時間のほとんどを占拠できたら。
恋人は作らないと何度断っても群がる女達が近寄る隙もないほど。
そうすれば、私を想ってくれている錯覚が少しでも長く続くのではないか。

あくまでも自分のためだ。

「疚しい…」

恋人になる気はないのに、彼の心を留めておきたい自分。
あまりに身勝手な己の心に辟易する。

けれど残された彼の痕跡に心充たされ、しばしそれから眼を離すことが出来ない。




唇はただ確認したいだけ。

(この気持ちがどこに在るのか)

躯はただ教えて欲しいだけ。

(私が私であるために)






—————
現在何を書いても意味不明になってしまう、意味不明警報が出ているようです。

そして前回より時間経ちすぎてテイストが違ってきたような気がします…orz