閉じられたカーテンの隙間から射し込む太陽の光が顔に当たり意識が浮上する。

いつもと違う景色にここはどこだったかぼんやり考え始め…徐々に記憶が蘇る。

(ああそうだ、私敦賀さんと…)

撮影中の映画でベッドシーンがあることが判明して、経験もない私はフリすらも出来ず彼からAVを借りようとして…

自分の考えの甘さを知った。

(敦賀さんの言う通りね。こんなの…体験しないとわからない…)

彼の手で未知の感覚を引きずり出され突きつけられた。
羞恥を凌駕する快感を与えられて、最後は彼に喰らいつかれて…否喰らいつかれたい衝動。

音を上げて意識が落ちる瞬間、彼が揶揄うように囁いた言葉がまだ耳に残っている。

「もう、降参なんだ?」

つまり私はすべてを学べなかったということなのだろう。

久々に、子ども扱いをされた気がした。




一つ、敦賀さんが気付いていないことがある。

今回、敦賀さんはたまたま一番に相談されたと思っているようだけれど、私は初めから彼以外の男性に相談するつもりはなかった。

彼にこれまで何度も無防備さを窘められてきた私は、さすがにこんなことを相談すれば身の危険を感じることになることくらいもう解る。

モー子さんに相談した時も、モー子さんはすぐ答えを出した。

「実際に誰かと寝るのが一番手っ取り早いんじゃない?」

そう思うのが一般的なら、迂闊に相談してはいけない…それが敦賀さんに教えられた処世術。

一方で、それなら敦賀さんとがいいと即座に思う厚かましい自分がいた。
けれどそんなこと自分から言える訳もないから、モー子さんに代替案を出してもらったのだ。


——だからこれは成り行きではなく、私の本懐。



演技の為だった。

しかし彼を知れば、このずるずると募る恋心にひとまずのケリが付くんじゃないか——そう期待もした。

これ以上この感情に侵されたくない。

敦賀さんは私の演技に協力してくれただけなのに、彼の役への拘りに私は別の意味も持たせて便乗したのだ。

彼に近付きすぎるのは一歩間違えれば危険な行為だと、警告もちゃんとあったのに。

(結果がこれね…)


役者としてはいい経験が出来た。

個人としては・・・更に苦しくなった。

自業自得。


…あの瞬間は何もかも忘れて彼の特別になったようなリアルな幻を見た。

(違う。私と敦賀さんは恋人なんかじゃない)

現に私は気付いている。

彼は最中にけして唇を合わせもしなかったし愛を囁くことも勿論しなかった。

——恋人ではないから。

それは恋人同士がする事だ。

寝ること自体には恋人であるかの条件は必要ではない。
お互いフリーで同意の上なら誰にも咎められる筋合いはないだろう。

けれど恋人関係にない私達にキスと甘い睦言は必要ない。

(敦賀さんは正しい…)


もしあの時普段の唇を合わせるような行為ではなくて、キスをされていたら——


きっと私は錯乱して後先見えず血迷い、愚者になっていただろう。






—————
第4回恋人になろう作戦。

・・・・惨敗(またか)

おかしいなぁ…ここらでキョコたんが諦めるはずだったのに。


敦賀氏、自分も知らない間にキョコたんに対無防備刷り込み完了、の巻。