彼女の瞳に迷いはなかった。
女優魂が彼女を駆り立てているのだろうか。

「教えて下さい。…どうせ私は一生結婚するつもりなどないですし、今後も恋人を作る予定もないので誰かに教えてもらわないと…」

誰か?

気に入らない。

誰かなどという不特定な選択はさせるものか。

「言っておくけど、俺がすべて教えてあげるから。他の男にも教えを請うのは許さない」

「そんなことしません!敦賀さん以外の男の人に、こんなこと…頼みたくありません…」

徐々に声は小さくなっていったが、不幸にも最後まで聞き取れてしまった。

ああ、どうして君も自分を追い詰めることを言うのか。

紅潮した顔で睨む彼女がとても可愛くて、またその科白がどうしようもなく愛おしかった。

けれど聞こえない振りをし彼女と唇を合わせ、先にシャワーを浴びてくるよう促した。




「ふ、ぅ…」

彼女がバスルームに入ったのを確認してから、倒れるようにソファに横になる。

彼女と唇を交わす行為はキスではない。

ならこれからしようとする行為は——ただの実演、彼女の経験の為。

今夜限りであればそれで説明がつくだろう。

「はっ…」

思わず自嘲の笑みが出る。

「誰に言い訳してるんだか…」

だが理由をつけないと彼女に触れることなど赦されない。

これ以上彼女を知ってはいけない。

今回も、理由があって行為があると位置付けなければ、ずるずると彼女に溺れて行きそうな…本当はこの行為にさえ頭では危険だと警告が鳴っている。

きっと彼女も今頃同じ葛藤を抱いているだろう。

けれど他に選択肢が無かった。
きっかけは彼女は仕事へのプライド、俺はそんな彼女への助け——他の誰にもその役目を渡したくない独占欲は附随した裏の心だ。

彼女を愛しているが【恋人】としてでの行為ではないと、何度も己に言い聞かせる。

——絶対に【恋人】としては愛さない。


「…滑稽だな」

想い合ってる男女が行き着く末の行為だというのに、決して想いは口に出さずまるで義務であるかのような正当な理由を並べて、この行為に男女の意味合いは絶対に持たせない。

「は…」

深い溜息とともに自分の劣情も吐き出してしまいたい。

「社さんが知ったらまた色々言われるんだろうな…」

ふとそう思った。
呆れるか、怒るか、それとも両方か。

それでも後には引けない。

これは彼女の経験、それ以上でも以下にもならない。
想いを告げる行為ではない。



ただ一つ、救いがあるとすれば。

これで彼女の心が揺るいだりすることはないということか。



俺と同じ。




——愛を交わす恋人は要らない。








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しくしく…ぐすん。
もうこの全否定な2人を、どうにかして(><)

今回こそはいけると思ったのに…(嘘くさ)
事後も書こうかと思いましたが、妄想段階ですでに初事後のくせにめっさドライで更にゴールが遠のきそうだったんで踏みとどまりました。
書くならきっとタイトルは【雷天泣】-4(爆)←後退。

そろそろキョコ視点もあった方がいいですかねぇ…いや、蓮さんとあんま変わらんか。