「お前、キョーコちゃんとどうなってるんだ?」

車に乗り込んで早々、社さんが語気を荒げて聞いてきた。
さっき楽屋で、差し入れに来てくれた彼女とつい唇を合わせてしまったのを見られてしまったからだろう。

「別に。特にどうもありません」

「どうもないのにあんなコトをしてるのか?!」

「はい」

「な…っ!」

何考えてるんだと絶句する社さんを横目に、俺は車を走らせる。

あの行為の理由を上手く説明できそうになかった。
2人の関係はと聞かれれば先輩後輩としか言いようがない。
なのにどうしてかと聞かれると困る。
他人に説明出来るだけの確固たる理由なんてない。
あれは俺と彼女にしか通じないものだから——


「どうして付き合わない?どう見たって想い合ってる者同士じゃないか」

「【恋人】は必要ないからですよ」

「はぁ?ならお前はキョーコちゃんが他の男と付き合い出してもいいってことか?」

「俺を想ってくれてるのなら、誰かと付き合うことはないでしょうね」

「何だそれ!恋人にはしないくせに気持ちだけ向けさせているのか?!」

憤慨する社さんに曖昧に微笑ってやり過ごすしかなかった。

やはり上手く伝えられない。

「最上さんも恋人は望まないんですよ」

むしろ彼女は恋心そのものを俺より責めていた。
最近ようやくこのウイルスになす術はないと諦めたようだが、恋人という単語にはタブーかのように拒絶反応を示す。

俺もそれでいいと思っているのに、社さんは理解に苦しむらしい。


「2人で幸せになる気はないのか?」

「俺とじゃ幸せになれないですよ」

「何でだ」

それは社さんであっても言うわけにはいかない。

「2、3年前…社さん言ってたじゃないですか。お前が最上さんの男の査定をしてやれって」

「あ、ああ…そんな話もあったな」

「俺はその査定では最終選考にすら残りませんよ」

むしろ応募資格もあるのかどうか。

「彼女の男を見る目は、やはり鳥目だってことですね」

「自分で自分の査定は主観的になりすぎると思うぞ。俺はお前達は似合いだと思ってる」

だから、となおお節介を焼こうとする社さんの言葉を遮った。
今更他人に言われて心変わりする話でもないから。

「社さん、俺が今まで出会った人の中で、俺の査定を合格した男性が1人だけいるんですよ」

「…誰なんだ?」

「社さんですよ」

「……へ?…ば、馬鹿言うな」

「いえ、至って本気ですが」

社さんならきっと彼女を傷付けることはしないだろう。
優しく包みいずれ彼女を癒す、俺には出来ないことが社さんには出来る——わかっていた。

「…高く評価してくれていることには礼を言うが、俺にとってキョーコちゃんは妹みたいなものだ。女として見ることは今後もないと先に言っておく」

「はい」

それもわかっていた。

だから社さんを勝手に合格者だと認定し、彼女の理想の相手として社さんという安全牌を俺の中で置いていたんだ。

理想、だけれどけして奪われることのない。

(——本当に卑怯だ)


彼女を幸せにもできないくせに、密かに彼女を束縛する。

そして互いに身動きの取れないところまで堕ち続けて行く。


互いの手しか求めないままに——しかしその手を取ることはなく。







—————
あれ、ヤシロにもならんかった(爆)

REQ【恋天泣】の2人の設定なんですが…
私にはやっぱりこの2人をくっつけさせるのは無理みたいです(泣)
どうしてそうガンコなんだ…!

さて、勉強に戻ります。
けれど勉強中は色々降りて来て脱線しまくり( ̄ε ̄)