唇を合わせた後は、必ず泣く。

色っぽい顔をして見つめてきて、引き寄せられるままに唇を合わせれば、彼女は嬉しそうに応えた後、急に泣く。

そして二人して決まった科白が交わされ、何事もなかったかのようにまた元に戻る。

「私に恋人なんて必要ありません」

「俺も恋人は作れない」

それでも、互いの恋心はもはや隠せない、消せないところまで迫っていて。
無意識に唇を合わせてしまったことからこの歪な行為は始まった。


キスとは違う。

キスと認めたくはない。

ただ唇を合わせるという行為は、他人から見ればそれはキスだと云われるのかもしれないが、当事者としてはこの行為にそんな甘い名をつけるつもりはない。

2人の関係はあくまで先輩と後輩で、恋人同士ではない。
例え想い合っていたとしても、恋人になることはない。

俺も彼女も、【恋人】を求めていないからだ。

本来ならば、この【恋心】ですら生まれて欲しくはなかった。

だがこれはウイルス性の病気のように急に発症し治す術が見つからないからもう諦めた。

彼女も同じようだと見受ける。

表には出さないよう必死に隠しているのに、ふとした拍子に顔を覗かせようとしてきて。
もう何年も近くにいると、お互い嫌でも気付かされる。


——向こうも、きっと自分に好意を抱いている。


単純に嬉しい反面襲う危機感。

一方通行のままでいたかった。

万一想いを告げられると困る。
嫌いとは言えない。
かと言って応えることも出来ない。

けれどそれも彼女と同じだと分かってから楽になった。
彼女もけして恋人として俺を望まない。


——ならばこの行為に何の意味があるのだろうか。


海外では当たり前の挨拶とも違う。
いくら何でも口にはしない。

想いを伝えたいわけじゃない。
お互いはっきりと伝えたわけではないからこうして傍にいられる。

性欲ともまた違った。
確かに彼女のすべてを暴きたい気持ちになるときはあるが、そのときに唇を合わせるわけではない。


——確認したいのかもしれない。

まだ好きでいてくれているのか。
他に気持ちが揺れていないか。
自分のモノには出来ないくせに、他のモノにもなって欲しくない——卑怯な独占欲。

でも、君もそうなのだろう?



この日も、夜食を作りに来てくれた彼女と唇を合わせた。
案の定彼女は笑顔を見せた後、静かに涙を滲ませる。

「泣くほど嫌?」

今まで涙の理由をあえて聞かなかったから、彼女を驚かせてしまった。

「嫌なはずありません。ただ…」

「ただ?」

「苦しい…」

「何故?」

彼女は答えない。
それで良かった。
聞いてはいけない気もしたから。

だがコーヒーを入れようと立ち上がり彼女に背を向けた時、彼女の呟きを拾ってしまった。

「もう傷つきたくないのに…もっと欲しくなるから」


——俺もだよ。

もうこれ以上の幸せは得てはならないのに、もっと君に近づきたくなる。


ああ、君が好きだ。


でも君の為にも俺は君を求めてはならないんだ。
獰猛なアレの格好の餌にしてはいけない。
アレは君を嬉々として傷つける。
だからその言葉は聞こえなかったふりをして彼女にコーヒーを渡した。

「ごめんね」

君を幸せにすることも、他の男へ向けさせることも出来ない。

俺に君を癒す力はない。



もう一度唇を合わせる。
今度は彼女から。

最近間隔が短くなっているような気がした。
それは彼女からも与えられることが増えたからか。
合わせるだけでは物足りなさを感じるからか。

いつまで続けられるだろう?

危ういながらも保っているこの均衡は、どちらかが崩せばどうなるのだろうか。



「悪いのは疚しい私なんです」

謝る彼女の瞳からまた涙が浮かぶ。
そこにも唇を寄せて涙を掬って、ただ彼女を強く抱きしめた。





そしてまた、何事もなかったかのように戻そうとする。






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最近キッチーな蓮しか出てこないので、普通の蓮キョを求めてsei様宅の罠の周りをうろちょろしてたらとある罠で足が止まり、入ろうか考えてたら出来たブツ。

あくまでキッカケで、罠趣旨からは激しく逸脱していて申告するかも迷ったんですが、キッカケ頂いたので自白。

しかしこれで終わりなんですよ。くっつかせられなんだ…(><)

最近こういう中途半端で意味不明なブツばかりが出来上がります。
seiさん、せっかくの罠をごめんなさい、そしてありがとうございました!


誰かこの2人をくっつけてもらえんものか…