音もせず落ちてくる雨は、行き交う人の傘や笹飾りに触れては無数の雫を作っていく。
花街の煌びやかな明かりに触れたそれは、静かに土へと吸い込まれていった。
女たちが七夕を待ち望んでいたのは昨日までの事で、今朝の雨模様を目の当たりにしてしまえば、今日は七夕がまるで禁句であるかのように皆、口にする者はいない。
ただ、空を見上げては溜息が零れた。
止まない雨に紛れて複数の足音が近づいてくる。
騒々しさに振り向くと、そこには浅葱色の波が揺れていた。
沖田「○○さん!」
反応が遅れたあたしを道の端へと誘導し、息を整えながら
沖田「不逞浪士がこの界隈に潜んでいると報告を受けました。くれぐれも気を付けてくださいね」
それだけ言うと隊へと戻って行ってしまった。
足音は遠くなり再び静寂に包まれる。
すると、小路から現れた強い力が、あたしの意思とは無関係に全身を引き寄せた。
沈香の香。
はっと見上げるとそこには、肩で息をする俊太郎さまの姿があった。
古高「驚かしてしもうたね。堪忍しとくれやす。」
筋張った腕に包まれると少し早い鼓動があたしの耳に振動として伝わってくる。
古高「先日、七夕の話してはりましたやろ。それで、どうしても顔が見とうなって来てしまいましたんや」
照れくさそうに笑いながら節くれだった指が壊れ物を扱うかの様に髪に触れた。
頬には泥が撥ねた痕。
先ほど駆けていった新選組と関係があるのだろうか。
何も聞かずにあたしは俊太郎さまの泥を掃った。
古高「織姫様。わてはあんさんに彦星になれたやろうか。ここなら雨でも、天の川がぎょうさん見れるさかい。ほんの一刻だけでええ。あんさんを感じさせとくれやす」
花街の灯りが雨に滲んで交差する。
煌めきが届くか届かないかの闇がりで二人の吐息が交差する。