明日、勝負します | ドキュメンタリー映画『 一献の系譜 』

ドキュメンタリー映画『 一献の系譜 』

2015年9月26日から「新宿武蔵野館」にて東京上映決定!イベントやツアーなどのニュースを随時UPしていきます!

40年その道をひたすらに歩み、
しかも全国の新酒鑑評会では連続で多数金賞を受賞している、
まさに名実ともに名人杜氏が「20年間で初めてや!すまん!」と言って
頭を掻きむしる。

どうやら、今年の造りはどの蔵も相当に難航しているようで……。
果たして撮影して良いものか戸惑いながらも、
杜氏が酒から目を逸らさないように、
私も杜氏の如何なる姿からも逃げ出さず、
じっと見詰めねばならないのだとカメラを向ける。
ただ、その距離感は精一杯推し計りながらのものでありたいけれど。

結論を急ぎたくても、どうにもならないことがある。
そして、たぶんそれは、「物事にはしかるべき〝時〟がある」
ということに他ならないのだろう。
杜氏の酒造りを間近に見せてもらい、
日頃如何に自分都合で物事を進めているか思い知らされた。

昨日の17時時点で私たちが帰る2日までには、
9割9分搾ることは無いと告げられた。
撮影日数は、ずれこむ可能性を見込んで余裕を持ったものだった。
例年の話だと2本分のチャンスをみていた。
しかし今年は大きくずれ込み、思うように酵母が動いてくれないと言う。
メインスタッフは、次の現場があるので2日には解散となる。
しかし、私は独り現場に居残ることに決めた。
急遽新スタッフに応援を頼む。しかし、撮影は5日から。
さて、もはや全く読めないその時がいつなのか。
新たなカメラマンを調達したものの、
その手前の3日、4日で搾りが終わってしまったら……。不安が募る。
どうか、間に合いますように……。スタッフ皆で神棚に手をあわせた。


そして、翌日の今日は映像スタッフが
杜氏のプレッシャーになりたくないと思い、
遠くからそっと見詰める程度の距離でいようと思っていた、その矢先、

「明日、搾るよ!」と!!!

何をやっても動いてくれなかった酵母が、今朝になって動き始め、
ここに来て一気に理想の形へと変化して行ったのだそうだ。
険しかった杜氏の顔に笑顔が戻る。
思わず、樽の中に顔を突っ込んで香りを確かめる。
その背中から、わくわく感がはみ出している。
思わず、「何が起きたんですか?」としか訊きようがなかった。
でも、「うーん。。。判らない」と。
40年ベテラン選手にも判らない
1分の動きで醸されていく日本酒の世界。
古来より酒が神事と共にある由縁はこういうことなのかもしれない。


そして今回感じるのは、杜氏や蔵人の僅かな心の機微だ。
焦りや苛立ち、不安、そして信念。
またその先にある喜びが我が事のように響いてくる。
カメラを向けている相手と私は、カメラを向けている時間
共に生きているのだと思った。

明日、勝負します。