カンダナ 4 | 与那国民族資料館

与那国民族資料館

日本の最西端、国境の海にポッカリと浮かぶ与那国島にある私設資料館です。

アニシカ家の七男ウトンアだけは

このような非道を嫌った

しかし

兄たちは遊びだ冗談だと言って

聞き入れず

翌朝

ウブヤ親子が

苗取りをしている

タブルダ(田原川流域の田)へとやって来た


『手伝いましょうか』

アニシカの長兄は言った

腰を伸ばし振り返った父親は

アニシカ家の七兄弟を見て

一瞬フンと心臓が空回りしたが

おくびにも出さず

『手助けは必要ありませんので』

と答えた


『人の親切を無にするとは いずれ我々とは言わないが人の世話になるやも知れず』

と アニシカの次兄は言った

ウブヤの長兄は父親の制止を振り切って

『いえ 私達は自分の分というものを知っています それは自分の手足で稼ぐだけの欲しか持たないと言うことです 人を頼み人を当てにして分不相応の欲得を持つことは身を滅ぼすもとです』

と言い 続けて

『ですから あなた方の手助けは無用なのです』

と言った


うるさいくらいに啼きつづけていた

スミハトゥ(ヒヨドリ)の鳴き声がぴたりと止んだ

険悪な空気が辺りに漂い

これを嗅ぎつけた村人が一人二人と

遠巻きに様子を窺っていた


一歩前に踏み込んだアニシカの次兄を

長兄が止め ニヤニヤ笑いながら

『俺たちの田を小作してくれている方だ 乱暴は止せ』

と言った

これを聞きとがめた父親は

『タバル・クバタ一帯にある田はウブヤ家のものです 自分たちの田を自分たちで耕しているだけです』

と言った


村人は十人から二十人になった

もっと酷い惨状を心待ちにしている

いつの時代も人の不幸は甘露である


アニシカの長兄は

村人に聞こえるように

『確かにタバルダ(田原川流域の田)はウブヤ家のものである しかしクバタ(田原川支流域の田)は我々アニシカの兄弟が汗して開墾した田である もしクバタもウブヤ家のものであると言うのならその証拠を見せよ』

と 怒鳴った


三十人ほどのに膨れ上がった村人たちが

一斉に息を呑んだ


ウブヤの長兄は

『あなた方は力に物を言わせ あなた方の言葉を何も知らない人々に信じさせようとしているが 神仏は欺けません』

と きっぱり言った

『お望みどおり 証拠をお見せしましょう』


クバタで

ウブヤ親子はアニシカの兄弟の目の前で

田の畦から次々とウブヤと刻印された

フリシ(泥岩)を掘り出して見せ

『あなた方が額に汗して開墾したと言うのであれば 何故このようなものをわざわざ埋めておいたのですか』

と言った


アニシカ家の七兄弟は 衆人の目前で恥をかいた