「ひどい出来だ。彼は、まったくやる気を 見せない」。十二歳のミルン君は通信簿に、 こう記された。少年は、のちに名作童話「くまのプーさん」を書き、世界中の子どもたち喜ばせることになる。

死して三十二年、今なお人々の心を歌で揺 さぶり続けるジョン・レノン。学校の先生はジョン少年を見捨てていたようだ。
「失敗への道を着実に歩んでいる。望みはない。」

英国の名宰相チャーチルは、九歳の時「他の子と、トラブルばかりを起こす」「大変に能力はある。だが、彼には意欲というものがない。」と評された。学科もひどく、親がめまいを感じずに見るのは難しい通信簿だ。

そのチャーチルを選挙で破って、首相となり「揺りかごから墓場まで」と称される福祉国家を 築いたのが、アトリー。十三歳の時の評価は「彼は物事を考えて、自らの意見を形作る」と上々だが、「うぬぼれが強くて、他人の意見 をきちんと聞こうとしない」と、手厳しい言葉も記されている(C・ハーリー編『could do better』)

きょう、多くの学校で終業式がある。子どもたちは通信簿を手に家に帰ってくる。きっとドキドキしている。怒られるんじゃないか、と泣きたい気分の子もいるだろう。

けれど、ミルン君やチャーチル少年を思えば、何てことない。本当の才能を記すには 通信簿はあまりに薄っぺらいのだから。

以上 「中日新聞 朝刊コラム」より


私の学校で毎日配られる朝刊コラム集で読んだ記事です。とても心に残っていたので載せました。


夏休み前というタイムリーな話題で、ここまで的を射た文章が書けるなんて…改めてプロのライターの素晴らしさを感じました。


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