昨年9月に尖閣諸島沖で巡視船に体当たりをした中国人船長に対して、那覇検察審査会は公務執行妨害、外規法違反等につき二度目の起訴相当議決を行った。

以下、簡単に事件の流れを見てみると



平成22年9月7日   事件発生

9月8日   海上保安庁、公務執行妨害容疑で逮捕

9月9日   海上保安庁、公務執行妨害につき那覇地検

に書類送検

9月13日  船長以外の乗組員と漁船帰国

9月16日  国土交通大臣(当時)石垣海保視察

9月25日  那覇地検、処分保留で釈放

平成23年1月20日  海上保安庁、外規法違反に

つき書類送検

1月21日  那覇地検、公務執行妨害、外規法違反に

つき起訴猶予処分

4月18日  那覇検察審査会、公務執行妨害につき

起訴相当議決

6月22日  那覇検察審査会、外規法違反等につき

起訴相当議決

6月28日  那覇地検、すべての罪状に二度目の

起訴猶予処分

7月21日  那覇検察審査会、公務執行妨害、外規法等

につき起訴相当議決


司法の流れをごく簡単に説明すると

(逮捕)→(書類送検)→(起訴)→(公判)→(判決)

この一連の手続きを経ないと刑罰を科すことはできず、逮捕されたり起訴されただけでは推定無罪の原則から罪を犯したとはいえない。

逮捕というのは被疑者の身柄を拘束する手続きであり、警察等(この事件は海上保安庁)が行う。警察等は捜査を行い、その結果を検察庁に送致(書類送検)する。検察官は海上保安庁から送られてきた書類を精査し、追加捜査等を行い、裁判所に訴える(起訴)かどうかを判断する。

この起訴をするかどうかの判断は、検察官が独占しており、更に検察官の自由裁量に任されている。(検察官が当初から捜査を行う場合もあり(特捜検察等)最近、検察官への権限集中が問題視されている)

公判になれば公開の裁判で事件の内容がある程度明らかになるのだが、不起訴になれば、事件の真相が明らかにされずうやむやになる。その決定権を検察官が独占しているのが現状である。

このような権力が集中する制度により、起訴が正しく行われないなどの弊害を防ぐために検察審査会が「公訴権の実行に関し民意を反映させてその適正を図るため」に設置されている。(ただ、実態が不明など問題点も多い。)

具体的には検察官が行った起訴、不起訴の処分に異議がある場合、検察審査会に申し立てると同会が検察官の処分の是非を判断する。

今回、公務執行妨害と外規法違反等の2回に分けて異議の申し立てが行われ、それぞれに対して検察審査会は起訴が相当であると判断した。(4月18日と6月22日)

その結果を受けた、検察官が再びこの2つの起訴相当事案に対して起訴猶予の処分を行った。(6月28日)

そこで再度、検察審査会がこの2つの案件をまとめて審議することになったのだが、その結果が今回の公務執行妨害と外規法違反等について起訴を相当とするというものである。

この議決は、一般国民の中から選ばれた11人の審査員のうち8人以上の多数によって決定されている。(二度目の起訴相当は強制起訴となるのでハードルが高い)

今回の場合、3度にわたる検察審査会の議決の主旨が、ほぼ同じ内容であり、審査員の半数は途中で交代していることを考えれば、国民の常識による判断であると言っても良いだろう。

ところが、検察庁の発表を見ると、「当庁の不起訴処分に理解が得られなかったことは残念だが、詳細についてはコメントは差し控えたい」と、まるで他人事である。

ある法務省関係者に至っては「船長が日本に来るわけはなく、どんな意味があるのか分からない議決。検察審査会制度の見直し論議に飛び火するのではないか」と日本の主権よりも法務省内の組織を守ることが優先であるともとれるコメントを発している。

検察官が不起訴にした理由と、それに反対する検察審査会の主張は前回のブログに記したが、追加捜査などを行わず、これほどまでに被疑者の弁護を熱心に行う検察官を見たことがない。

いくら、政治的圧力をかけられ本心を言えないとしても、あまりにも国民を愚弄する内容ではないだろうか。

検察官の適格を審査する機関として「検察官適格審査会」というのがあるが現状は休眠状態なので効力を望むのは難しく、国民が声をあげていかなければ、役所組織は変わっていかない。

また、この時系列を見れば、気が付くと思われるが外規法違反等については1月20日に書類送検され、検察官は僅か一日で、起訴、不起訴の判断をして、その翌日に起訴猶予処分を下しており、6月22日には起訴相当の議決を受けた約一週間後の28日に再度不起訴処分を下している。

通常で考えれば、何れもこのような短期間で判断が下せるはずがない。

最初から結論ありきで起訴猶予の処分をしたと推測してもおかしくはない。