iPS細胞にも倫理的課題=国際幹細胞学会で指摘
再生医療や新薬開発への応用が期待される新万能細胞「人工多能性幹(iPS)細胞」の研究と臨床応用上の課題に関する国際幹細胞学会での議論を、加藤和人京都大人文科学研究所准教授らがまとめ、米科学誌「セル」(電子版)に11日公開した。細胞提供者のプライバシー保護の必要性や生殖細胞を作る場合の倫理的問題などを指摘している。
今年7月、スペイン・バルセロナで開かれた学会の年会で、カナダ、米国、英国、中国、日本の5カ国の科学者や生命倫理などの専門家17人が、ヒトiPS細胞の作成から研究利用、臨床応用の過程で想定されるさまざまな倫理的、法的、社会的課題について非公開で議論。会合に参加した加藤准教授らが内容をまとめた。
この中で、ヒトiPS細胞の作成と利用の最大の課題は細胞提供者のプライバシー保護と指摘。提供者の遺伝情報を守るため、セキュリティー・システム構築が必要としている。不妊治療など生殖補助医療への利用では、提供者の意思とは無関係に子供が生まれる可能性があり、倫理上の問題も生じるとしている。
加藤准教授は「日本ではiPS細胞に関する議論が足りない。今後、研究者をはじめ市民との議論も深めていくことが必要だ」と話している。
(時事ドットコム)
コメント:
ヒトiPS細胞がもたらす医療・生命倫理問題が包括的に列挙されている。
ES細胞に比べてヒトiPS細胞は「倫理」のバリアがないというのは、舌足らずであり、実に数多くの新しい「倫理問題」が浮上してくるということだ。
ヒトiPS細胞は「究極の個人情報」を備えている。この点で、論文内では「セキュリティー・システム構築が必要」とし、考え付く(想定される)問題が指摘されているが、具体的な解決には、バイオ・インフォマテイックス(生命情報科学)の専門家の参画が欠かせない。
こうした「セキュリティー・システム構築」に寄与する研究を、もう1年以上前に、東大から提案したが、この国では採用されなかった。研究計画を(われわれからすれば)当然のようにiPS細胞だけには限定しなかったが、この点で採否の意見が分かれた・・・まあ、この国の審査委員の質の問題ね・・・。米国の一流大学では、どうなってるか・・・くやしいなあ・・・。なお、いずれ、この国では、その研究提案が若干修正されて「私がシステムを提案しました」という大学・研究機関が出てくるだろう。上記の研究提案書を読んだ研究者がパクッて「iPS細胞利権」の中心地と組むんでしょうよ、きっと(笑)。・・・これ見てるよね?S君。まあ、その研究関連の知的財産権は確保しているから、ややこしいことになる前に採用しておけばいいのにね。この面で日本がリードできる・・・今のうちならば。
それと、もう1つ、この国では、上記の議論をする前に、新しい薬や医療機器の臨床試験の「被験者」を保護する法律が無い。先進国では、きわめて稀だ。
ヒトiPS細胞が新たにもたらす問題は徹底的に議論されるべきだが、さあ、いざ、臨床応用を!となったときに「被験者保護法」が整備されていないのに、どうなることやら・・・想像がつくでしょ?・・・一般の方でも。
まず、早急に「被験者保護法」を制定し、その各論の中で、ヒトiPS細胞の特殊問題をコントロールする法整備を行うべきだ。ヒトiPS細胞の倫理問題より、先にやることがあるのですよ。このあたりのことを十分にわかっていながら、今だに法整備できないのはなぜ?と、この問題に責任を負うはずの、生命・医療倫理学の専門家の皆さんに問いたい。
こういう日本の情況だから、私は、このヒトiPS細胞研究関連については、米国から戦略的に開始しなきゃならなかったのですよ。本気で、基礎ー臨床研究を加速するために・・・。