どこへ行くiPS細胞(中):安全性の審査、「経験不足」の厚労省・・・のコメント
グラフには右肩上がりに伸びた線が引かれていた。iPS細胞(新型万能細胞)が体の様々な場所で働くように細工したマウスの死亡率。京都大学の山中伸弥教授が厚生労働省の会合で示したもので、マウスは日がたつにつれ、次々と死んでいったことがわかる。
死因はがん。iPS細胞はがん化しやすいのだ。
現在最も効率が良いiPS細胞の作製法はウイルスを使って4種類の遺伝子を導入する方法だ。だが、遺伝子のうち1種類はがん遺伝子で、ウイルスによっても細胞の染色体が傷つき、がんになることがある。
山中教授はiPS細胞をがん遺伝子やウイルスなしでも作製しており、こちらのマウスは、ほとんどがん化しない。作製効率は悪いが、山中教授は「数年で解決できるだろう」と強気の姿勢を崩さない。
異論もある。「安全性を証明するには、実際に移植する細胞ががん化しないことを確かめないといけない。動物実験を重ねる必要があり、臨床応用までにはかなり時間がかかる」。国立がんセンターの佐々木博己室長はそう指摘する。
仮にiPS細胞を安全に利用する技術に見通しが立っても、実用化への道はさらに厳しい。
技術が成熟しておらずビジネス上のリスクがある再生医療分野で新薬開発を主に担うのは、ベンチャーと呼ばれる新興企業だ。医薬産業政策研究所によると、新薬の審査期間は米欧では14か月前後なのに、日本は25か月もかかる。ただでさえ財務体質が弱いことが多いベンチャーにとって、この時間差は死活問題。再生医療の実用化を目指した企業が、審査期間が長引いたため、倒産した例もある。
何が問題なのか。
厚労省の慎重な審査の背景には、度重なる薬害事件の苦い記憶があるようだ。再生医療を産業化したい経済産業省幹部は「新医療技術の導入で、厚労省は国民医療費がさらに膨らむと恐れているらしい」とも語る。
開発拠点を米シリコンバレーに置くベンチャー企業の森田晴彦・最高経営責任者の見方はこうだ。「日本で承認される薬は、海外で承認済みのものがほとんど。海外の製薬企業は、開発したばかりの薬を日本では申請しないから、厚労省に審査ノウハウが蓄積されない」
政府はiPS細胞研究に数十億円の支援をしているが、このままでは国内の医療ビジネスの競争力強化は望めない。拙速な審査は論外だが、iPS細胞を牽引(けんいん)役とする再生医療の実用化のためには、審査当局の基礎体力アップと発想の転換が欠かせない。(読売新聞)
コメント:
iPS細胞のがん化問題については、ここでも折に触れて述べている。
国立がんセンターの室長氏の記事コメントの補足だが、「動物実験」をやろうにも、
適切な「疾患モデル動物」が確立されていない場合もあるので、そういうときに
iPS細胞は、新しいリサーチツールとして威力を発揮する。
iPS細胞をリサーチツール(創薬あるいは新薬の毒性評価)として」使う場合と
移植医療(再生医療)として使う場合を若干、ひとくくりにしたコメントに見受けられた。
前者なら、かなり早く実用化できるだろう。
むろん、どういう場合でも、がん化リスクを極限にまで無くしたiPS細胞であればなお良く、その点で、ヒトiPS細胞の標準化に関する研究は最優先課題となる。
一方、日本の審査体制だが、別にiPS細胞に限らず、今だに、この国の新薬審査体制は、欧米に比べて脆弱である。
これは、以前から幾人もの識者も述べており、それなりの対策が講じられているが、まともに「論文」も読めないような「給料泥棒」が多くいるので困ったもんだ・・・。
なぜ、この国では審査が遅いか。
彼らは、企業担当者のせいにするが(まあ、ときおり、不十分な資料を出してくるほうも悪いが)、審査官の英文読解能力には、いつも疑問を抱いている大学教官の1人です。
だいたい採用された「審査官」で、英文一流誌に自著の論文をしっかり書いていた奴がいないから無理もない。
・・・で、そういうことに「コンプ」をもってる上のほうの役人は、「先生、研究なんて、どうでもいいんですよ、などと暴言をはく」(俺は忘れんぞ。近いうちに問題にしてあげる。)
こういうことで、iPS細胞云々以前の問題が、この国にはあるのです・・・。